2020年8月15日 第653回 月例天文講座 

星間ダストと暗黒星雲のお話

東京学芸大学教育学部自然科学系 教授 土橋 一仁 先生


 恒星と恒星の間の広大な空間のことを、星間空間と呼ぶ。星間空間には1立方センチメートル当たり平均で1個?数10個の水素を主成分とするガスがある。ガスは、希薄な星間空間では原子の状態にあり、密度の高い領域(100?1000個/cc以上)では主に分子の状態にある。星間空間には、ガスの総質量の100分の1程度の微小なダスト(塵)も存在する。このようなダストを、星間ダストという。星間ダストの大きさは、大きなもので直径0.1ミクロン程度、小さいものはナノメートルサイズである。

 天の川の写真を撮ると、「暗黒星雲」と呼ばれる真っ黒な領域が所々にあることに気付く。暗黒星雲が真っ黒に見えるのは、暗黒星雲に含まれる濃密なダストが背景の星の光を吸収・散乱するためである。暗黒星雲の特に密度の高い部分である「分子雲コア」では、集まったガスやダストが自己重力で時間とともにさらに凝縮し、やがて太陽のような恒星や地球のような惑星を形成する。つまり、暗黒星雲は星が誕生する場所なのである。我々の地球を含む太陽系も、46億年前に銀河系のどこかの暗黒星雲の中で誕生した。その時に集まったダストが互いに衝突・合体したり、ガスがダストに吸着したりして大きくなり、やがて地球のような惑星を形成するに至った。私たちの身の周りにある岩石や動植物を構成する物質は、もともと宇宙空間を漂う小さなダストだったのである。

 銀河系内での暗黒星雲の詳細な分布を調べるため、我々東京学芸大学の研究グループは、1990年代後半から暗黒星雲の全天アトラスの作成に取り組んだ。全天アトラスそのものは10年ほど前に完成したが、その研究で得られた暗黒星雲の膨大なデータは、天文学の世界に大きな影響を与えた。現在、欧州宇宙機関の宇宙望遠鏡GAIAや、ハワイ・マウイ島ハレアカラ山に建設されたPan-STARRS望遠鏡による最新の天文学データを活用した同様の研究が、世界各国の研究グループにより展開されている。我々の研究グループも、これらの最新データを利用して、暗黒星雲内外でのダストの性質(大きさや組成)の変化を追跡する新しい研究に取り組んでいる。

 本講演では、星間ダストと暗黒星雲の概要について解説した後、東京学芸大学や世界各国の研究グループの最新の研究成果について紹介する。



[参考](中嶋記)
*右上カットは銀河中心方向の暗黒星雲 (暗黒星雲博物館のページより) (図をクリックすると拡大します。)