2023年8月19日 第689回 月例天文講座  

銀河考古学:古い星に刻まれた銀河
  形成史と暗黒物質の正体

  東北大学教授     千葉 柾司 



 「銀河考古学」とは,まさしく銀河をその骨格である星すなわち恒星に分離し,個々の恒星の性質に基づいて銀河の形成進化を研究する学問体系です.特にハローに存在しているような古い年齢の恒星では,その空間分布・空間運動そして恒星が持つ化学組成が銀河の過去を知るための重要な化石情報となります.

 これらの情報は恒星がいつどの恒星集団(矮小銀河などの銀河を作る元となった恒星系)起源で生まれてきたのか,そのルーツを辿るための DNA のようなものです.また,このような古い年齢の恒星系は一般に銀河の重力場全体に広がっているので,恒星系の動力学構造を与える背景重力源の質量分布,特にダークマターの空間分布の重要なトレーサーになります.

 銀河考古学の分野は,ヒッパルコス衛星やガイア衛星による精密なアストロメトリ,さらにはスローン・デジタル・スカイ・サーベイやすばる望遠鏡などを用いた大規模な観測サーベイにより,近年大きく進展してきました.本講演では,私が携わってきたこの分野の初期から現在に至るまでの展開,さらにはこれからの展望について述べます.



参考資料 (中嶋記)

* 千葉先生著書『銀河考古学』、2015年 日本評論社
天文月報記事 (2022年11月号)
* 右上図は、上記天文月報記事より。 天文月報での図の説明:
左: すばる望遠鏡 CISCO による 4重像レンズ PG1115+080(すばるホームページ).遠方にあるクエーサーからの光が銀河レンズによって 4つの像(A1, A2, B, C)に分裂している.フラックス比 A2/A1 が 1でない異常比を示す.
右: 多くのサブハロー(小さな黒丸)を持つ銀河ハローによる重力レンズ現象の概念図.サブハローがレンズ像のフラックスに影響を与える)