はやぶさが持ち返ったイトカワの塵に秘められた小惑星形成史

           東北大学  中村 智樹 先生

          (2013年1月19日,月例講演会,中嶋メモ)
          (出典のない図は,宇宙研の Youtube より)   
*自己紹介
 東北大で,地球外物質の研究をしています.

*はやぶさの経過を振り返って
 帰還
 2011年、解析結果を発表
 現在は、解析研究者の公募中
         

*はやぶさのまとめ(ビデオー宇宙研にて取得可能)
 機器の構成 
 カプセルの写真
 ロケットに格納の状況
 打ち上げ
 搭載カメラ映像
 パドル展開
 イオンエンジン噴射
 イトカワ接近の状況                      
              
 イトカワの映像 ー 表面が岩だらけで衝撃
  > どこに着地したら良いか
 タッチダウンの状況 ー ウーメラにしたかったが、
  のっぺりしたミューゼスの海になった。
  その映像: 砂利のような表面
 はやぶさの高度計の記録
  ホーンが3回衝突し、北の方にずれて、30分くらい寝そ
  べっていた。
 2回目のタッチダウン
  高度計記録は、計画通りの進行、               
  しかし翌日、ボールの発射がなかったことがわかる。
              
*苦難の帰り道
 帰りのバスが3年後
 カプセルの回収の状況
 宇宙研のキュレーション設備に、4日後到着(2010/06/18)
 中村先生他3名が携わる(報道陣がつめかける)

*カプセル開封および解析専用のサンプル処理施設
 コンテナの開封は真空の中で。
 開封のための特別な装置 
  > キュレーション設備(右図)藤村先生の解説より   
 中村が、10日後に行う。
 何回もリハーサルして実行。
 中には少し地球のガスがあった
 サンプルキャッチャーはA室、B室に分かれている
 B室の開封の状況
  > 開封の瞬間の映像 ー 一見サンプルは見えない
 顕微鏡で見ると、微粒子があった。
 石英ガラスの3/1000mmの針で、静電気でピックアップ
 あまり大変なので、テフロンへらで掻きとり、直接電子顕微鏡へ
  拡大画像(塵がたくさん写っている)
  電子ビームで組成を調べる

*鉱物組成と化学組成
 1500個の粒子 ー 5種類の鉱物
  (トロイライト、カマサイト、テーナイトは地球にはない)
  他はカンラン石、輝石、斜長石
 化学組成は、隕石と同じ
 5ヶ月後に(11月16日)報道発表
 約40資料の初期分析

*つくばの高エ研の放射光X線回折および蛍光X線解析
 粒子をそこなうことなく成分がわかる

*ダイヤモンドの刃を用いてスライス
 電子顕微鏡写真

 2種類の輝石のCa量の割合から、温度がわかる
 > かなり長期間、800℃に加熱されていた。


*なぜ小惑星を研究するか  
 太陽系形成の標準モデル(右図,講演要旨より)
  45億年前の原始太陽系円盤
  この時に形成された小天体が、本当に小惑星か?
  > ほんとうにそうなのかを突き止めたい
  > どうしてイトカワのような形ができたか?

 小惑星は隕石の母天体か
  > S型小惑星は、反射率などが隕石と異なる
  [注] S型小惑星はケイ素の多い小惑星(参考:wikipedia
  
 結論1:
  イトカワ物質は、隕石のLLコンドライトと同じ物質
  [注] コンドライトは、石質隕石(ケイ酸塩鉱物を主要組成
    とする隕石)のうち、コンドルールという球粒状構造
    を持つ隕石である。
    化学組成から、普通コンドライト、炭素質コンドライト、
    Rコンドライト、Eコンドライトに分かれる。それらはさ
    らに、合計12余に細分される。
    普通コンドライトは、最も普通の隕石である。金属鉄
    (鉄元素ではなく、金属状態の鉄のみ)の量から、鉄が
    多い順にH、L、LL(アンホテライト)に分けられる。
     (Wikipedia
 
  反射率の違いは、太陽風照射による宇宙風化作用
  > 野口先生の解析:超微細の表面画像
    > 硫化鉄などの黒い粉が薄く付いている
      陽子の照射が酸化鉄の酸素を取り、鉄金属になる
      > 黒くなる
   
      (JAXA解説ページより)


 結論2:
  微粒子は、天体内部だ加熱されたものとそうでない
  ものがあある(800℃で数千万年)
  > 初期の天体は 26Al の壊変熱
    これで800℃になるには、直径20km程度である必要
  > これが一時破壊された < 非常に強い衝突の痕跡を
    残す粒子がある < 衝撃の発熱で発泡した岩石がある
  > イトカワが現在の姿になるまでの図
    
     (中村先生のプレスリリースより)


*2011年8月26日
 サイエンスに発表
  
  (宇宙研プレスリリースより)


*まとめ
 小惑星は原始天体
 イトカワはラブルパイル天体=破砕集積体(はさいしゅうせきたい)

*質問
・小惑星帯がなぜ火星と木星のあいだにあるか?
 > 答えられない。
   カイパーベルト天体を考えると、惑星のほうが異常。

・宇宙から降り注ぐ「チリ」について.
 > 小惑星と彗星から放出
   0.05mm 1年間に10粒(1坪あたり)
   南極で最終できる。高度20kmの偵察用の飛行機ならば集められる

・ボーデの法則(数値4)からすると,小惑星帯に惑星が
 できたはずだが木星の影響で壊れたのではないか?
 > その可能性がある。

・ダイヤモンドカッターの方法
 > 固い樹脂に埋めて、削って行く

・イトカワは大きさが小さくなりつつあるか?
 > 確かに少しずつ削られてゆくが、なくなるようなことはない。
   中は数十mの岩が積もったもの。空洞がある。

・形の制約について.
 > S型では300km

・はやぶさ2の見込み
 > 水の存在や,生命の起源などについてわかる.
   ドラマチックでないことを望む.