VERAが挑む銀河系の精密立体地図作り

          面高 俊宏 (鹿児島大学理工学研究科・教授) 「あれ!雲ひとつない満点の星空に白い雲が?」。ミルクを流した淡い白い帯のように、 南から北に天を両断するかのような巨大な円弧を描く天の川の姿(下図)である。これは私達 が住む天の川銀河を、銀河の端のほうにある地球から眺めた姿である。ガリレオ。ガリレ イは自作の小さな望遠鏡で天の川を眺め、白い帯が、ひとつひとつ輝く無数の星でできて いることを発見した。天の川の中では無数の星が生まれ、明るく輝き、そして暗黒の中に 消えていく宇宙ドラマが繰り返されている。 この宇宙ドラマは、天文学のもっとも重要な研究テーマの1つである。しかし、これま で多くの観測が行われたにも関わらず、私達の住む銀河のそのものの詳しい構造について は、実はよく分かっていない。その原因は、銀河系の天体があまりにも遠く、距離や天体 の運動を正確に測る観測技術がなかったからである。距離がわかって初めて、天体の真の 明るさや大きさが分かるのだから、その重要性は明らかだろう。VERA計画は星までの距 離を直接測量し、世界で初めて私達の住む銀河の3次元地図を作るというチャレンジング な計画である。 では、1秒間に地球を7周半する光のスピードでも数千年、数万年かかる星までの距離を、 いったいどのようにして測量するのだろうか。答えは江戸時代に伊能忠敬が日本中を駆け 巡り日本地図を作った「三角測量法」という測量法である。 VERAは光のスピードで数万年もかかる距離測定に地球の公転を利用した三角測量法を 採用した。地球は太陽の周りを1年かけて公転する。地球の公転の例えば春と秋の位置を 底辺として、星と成す三角形の頂角を正確に測ることができれば、地球と太陽の距離は分 かっているので、星までの距離が正確に決まる。しかし太陽までの距離は光の速度で500 秒と近いが、測るのは直径十万光年の天の川銀河の隅々の星までの距離である。底辺が光 のスピードで1000秒、辺の長さが光のスピードで十万年の三角形。この三角形の頂角はほ とんどゼロ度となる。この小さな角度を測らなければならない。VERA望遠鏡は口径20 mと大きいですが、私達に比べて視力がちょっと良いくらいである。視力を遥かに高める には大きな口径のアンテナを作らなければなりません。そのため我々は岩手県奥州市、東 京都小笠原父島、沖縄県石垣島、と鹿児島県薩摩川内市と日本全国4か所に直径20mの電 波望遠鏡を設置し、この4局で同時に同じ天体を観測することにより口径2300kmの巨大 望遠鏡が実現しました。月の上に置かれた1円玉を識別できるような超視力を達成しまし た。VERAはこの視力で2008年度から本格的な観測をスタートさせ、毎年100個程度の 星を観測し距離を決めるとともに星の運動も決定しながら世界で初めての銀河系の精密立 体地図作りを精力的に進めています。講演ではVERA計画の魅力とこれまでに得られた最 新宇宙地図を紹介します。