「ヒッグス粒子」の発見


1 はじめに
 昨年7月にヒッグス粒子と呼ばれる素粒子が、CERNのLHCでのATLAS
実験とCMS実験で発見された。我々はこれを7月革命と呼んでいる。このよう
な大きな発見は、1974年に米国の東海岸ブルックヘブン研究所と西海岸スタン
フォード線形加速器センター(SLAC)で殆ど同時に、現在J/ψと呼ばれる新
粒子発見されて以来である。因みに1974年の発見は11月に発表されたので11月
革命と呼ばれている。
 J/ψ粒子はチャームクォークとその反粒子の結合状態である。この発見が大き
な契機になって現在「標準理論」と呼ばれている素粒子の理論体系が確立されて
いった。本講演では、初めに「標準理論」の確立までの素粒子物理学の歴史を述
べ、標準理論の体系を説明し、次にヒッグス粒子とは何かを説明し、LHCでの
ヒッグス粒子の発見とその意義を話す。また、標準理論を超えて素粒子物理学の
新たなパラダイムへ進む方向を予想し、次の加速器である国際リニアコライダー
ILCを紹介する。

2 ヒッグス粒子とは何か?
 ニュートン力学の第2法則では、質量Mの物体に力Fを加えると、物体は力を
加えた方向に力を加えた方向に加速度αで動き出し、F=Mαが成り立つ。質量
Mが大きければ、同じ力を加えたとき加速度は小さくなる。即ち、質量は動き難
さの指標である。一方、真空とは何もいない全くの空の空間と考えられる。実際、
宇宙の初期においては、真空にはヒッグス粒子の場は存在しなかった。宇宙が膨
張して冷えてくると水が氷になるように相転移が起こり、ヒッグス場が真空に充
満することになる。素粒子はこのヒッグス場と相互作用することで、動き難くな
り質量を獲得する。これは非常に難しい概念であるが、このヒッグス粒子がいな
ければ、電子は質量を得られず、原子核の束縛から飛び出してしまい原子を形成
できず、我々の存在もなかった。

3 ヒッグス粒子の発見
 この様に重要な粒子を実験家が放っておくはずはない。ヒッグス粒子の提唱か
ら50年、様々な実験でヒッグス粒子の探索が続けられ、昨年7月にLHCでのATLAS
実験とCMS実験がついに発見した。我が国の研究者はATLAS実験に参加しており、
測定器の建設からデータ解析に至るまでその中心で研究を続けている。また、多
くの大学院生も実験に参加して活躍している。
 ヒッグス粒子は、今までに発見された素粒子とは全く異なる新しいタイプの素
粒子である。ヒッグス粒子は現在の理論を超えて先を見通す窓であり、ヒッグス
粒子の詳細研究は、次世代の加速器で我が国での建設が国際的に期待されている
国際プロジェクトである国際リニアコライダーILCでなされる。