メシエカタログ

    2015年1月19日(土),駿台学園,月例天文講座, 中嶋浩一



 「メシエカタログ」は,天文ファンならだれでも知っている「星雲・星団」のリストで
ある.夜空は一見,星ばかりがキラキラ輝いているように見えるが,ひとたび双眼鏡や望
遠鏡で眺めると,不思議な形をした雲のようなものや,宝石をばらまいたような星の集団
が見えてくる.これらを見た人は誰しも,宇宙の不思議に思いをはせるのではないだろうか.
筆者も中学生の頃,上州の寒風の吹きすさぶ校庭で,小さな望遠鏡でアンドロメダ大星雲
(当時はまだ星雲だった)を驚きの目で見たのをよく覚えている.近年は,メシエ天体が
見えると「これはすばらしい夜空だ!」ということに感動するようになってしまったが.

 メシエカタログを編纂した「シャルル・メシエ」はフランスの天文学者で,1730年生ま
れ,活躍した時期はちょうどフランス革命の頃であった.しかしメシエは,星雲・星団の
不思議さに魅せられてカタログを作ったわけではなかった.彼の天文観測の目的は,イギ
リスの天文学者ハレーが「1758年に出現する」と預言した彗星をまっさきに捕えることで
あった.残念ながらメシエは,ハレー彗星回帰の第一発見者の栄誉に浴することはできな
かったが,その後かえって彗星発見に意欲を燃やし,生涯に13個の新彗星を発見した.と
ころで彗星はどのようにして発見するかというと,キラキラ輝く星々の間にぼんやりと広
がって見える天体を見つけることになるのだが,夜空にはもともとそのような天体が数多
く存在する.これは紛らわしいというので,これらをリストアップして彗星探査の便宜を
図ったというのが「メシエカタログ」になったのである.

 このメシエカタログについては,筆者の教科書『天文学入門―星とは何か』でもその一
章を割いて解説している.それは「星とは何か」の解説において,星雲・星団が教材とし
て欠かすことができないからである.簡単にまとめると,星雲(特に散光星雲やその中に
見える暗黒星雲)の中で星がまとまって誕生し,雲が晴れてくると星団(特に散開星団)
としてその姿が見えてくる,ということになる.また,惑星状星雲は星の一生の末期の輝
きであり,メシエカタログ冒頭の天体M1は星の最期の大爆発を表している.さらに,星
団というのはほぼ同時に誕生した恒星の集まりであるから,これの「HR図」(前回の講演
参照)を研究することによって,星の個性の違いや星の成長・老化などが詳しく調べられる.
今回の講演では,これまでの2回の講演の流れの延長として,メシエカタログ天体に見られ
る「星の一生」の姿を解説する.このような観点から今回は,重要なメシエ天体の一つで
ある「銀河」については割愛する.