暗黒物質

  2015年3月28日(土),駿台学園,月例天文講座,講演要旨
  東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(神岡サテライト)特任教授 鈴木洋一郎 先生


今日の暗黒物質の話は、普通の天文の話とは幾分様子が違います。
  お星様や銀河を観測するには、普通は光や光の仲間である電磁波(電波、赤外線、可視光、紫外線、X線やガンマ線)を使います。最近では、素粒子の一種であるニュートリノや、非常にエネルギーの高い陽子も天体や宇宙の強力な、しかも新しい観測手段です。これらの観測手段を用いることにより、お星様や銀河の研究、そして、さらには宇宙の始まりの頃の様子まで研究を進めることができています。
  ところが、暗黒物質は実は何だか正体が分かっていません。しかし、暗黒物質なくしては、宇宙はもはや語れません。暗黒物質は、宇宙を満たしている物質で、我々の知っている物質(原子分子等)の5−6倍はあるということが分かってきました。銀河の回転の不思議なふるまいや、多くの銀河の集まりである銀河団の中の銀河の運動も、暗黒物質なくしては説明できません。宇宙の歴史を詳しく研究した結果、暗黒物質がないと、実は銀河も星も生まれていないことがはっきりしました。したがって、人類も存在していなかったことになります。暗黒物質は、新しい素粒子の仲間ではないかとも言われていますが、まだ、確実なことはわかりません。宇宙の始まりに大量に作られた謎の物質、暗黒物質が、星や銀河の形成を手助けし、今でも我々の周りに漂っています。
  その暗黒物質の正体をあきらかにしようという試みが、今、世界中で進められています。日本にもその観測施設があります。ニュートリノで有名な、岐阜県神岡鉱山の地下にXMASSとよばれる測定器が設置され観測がはじまっています。XMASSは約100kgの液体キセノンを用いて、暗黒物質が液体キセノンと反応した時にキセノンがだす極微小な光を検出するものです。暗黒物質が未知の素粒子だとすると、極僅かですが、物質と反応する確率があります。現在までの探索で、ぶつかるとしても、10日に1回起こるよりもさらに稀であることが分かってきました。できるだけ大きな測定器を作って長く待つ必要があります。稀にしか反応しないので、測定のじゃまになる雑音の少ない地下に行く必要があります。宇宙の研究をするのに地下から観測することになります。
  暗黒物質の研究は、とてもユニークな成果に結びつく可能性があります。暗黒物質の正体が新しい素粒子だとすると、暗黒物質の観測が新素粒子の発見になり、宇宙の問題だけでなく、素粒子物理学に大いに貢献することになります。生命の母なる暗黒物質の観測が、普通の天文の話とはずいぶん違うことがお分かりになったとおもいます。


(中嶋補足)
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暗黒物質(ダークマター)の解説
『暗黒物質とは何か』(鈴木先生著書) (Amason 紹介)