2月20日(土)、長谷川雅也先生講演記録   (中嶋作成)

宇宙背景放射の50年 ー
インフレーション宇宙の重力波とPOLARBEAR


右のパワーポイント画像をクリックすると拡大します.(一部の「引用画像」は,解像度を落としてあります.)

◎はじめに
 本日のテーマは右図の表題であるが,「重力波」の
 大ニュースが入ってきたので,まずこれを紹介する.




◎LIGO(ライゴ)グループによる重力波の検出
 報告論文と,記者会見画像.





 重力波とはなにか = 星の重さで空間がゆがむこと
 空間のゆがみの大きさは、太陽 地球間の距離で、
  水素原子1個分




 LIGOは原子サイズの百分の一の空間のゆがみを検出できる






 今回検出した重力波は、36(+5/-4)太陽質量のブラック
  ホール(以下BH)と29(+/-4)太陽質量のBHの合体で
  出来たものである.
 このサイズのBHは今まで見つかっていない重さで、
  どうしてできたかが謎である.
 検出した重力波の波形は、相対性理論と完全に一致する.

 これは歴史的大発見で、重力波天文学の幕開けとなる.






 重力波望遠鏡はレーザー干渉計で、重力波による空間の
  ゆがみを検出する.
 LIGO と VIRGO と KAGRA の3基が観測を始めれば、
  重力波のやって来た方向がわかる.
 KAGRA は2017年に観測開始 


 佐藤勝彦によれば、宇宙誕生の瞬間にも重力波が発生
  したはず.

 (本日は,これについてお話しする)



◎宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光観測による原始重力波
  の探査について





○宇宙マイクロ波背景放射

 CMB(cosmic microwave background)は、ビッグバンの
  残光で,マイクロ波として宇宙をさまよっている.











 温度のあるものは、すべて電波を出している
 アナログTV(受信機)の空きチャンネルに映る雑音の
  1%は CMB である



○CMB発見の歴史
 1951  田中(名古屋大)が発見しかけていた
 1964  ベンジャス&ウイルソンが発見 
     いろいろな可能性を考察




     鳩のふんの影響までも考察

   → 結局,全天から来る自然の電波に間違いない.


 1978  ノーベル賞受賞





 ベンジャス&ウイルソンの観測は,全天で一様・等方






 1990 COBE 衛星が温度の違いを見つけた
     0.001%ぐらいの凸凹





 2001 WMAP 衛星 もっと細かい揺らぎの発見






 2009 PLANCK 衛星
  観測したマイクロ波宇宙図の中の赤い小さな点々が
   銀河のタネである.
 (宇宙地図はモルワイデ図法で、宇宙全体を平面で表す)

 ※この歴史は、TVがアナログ→デジタル→4Kと進化した
  時期と一致する

○スペクトル解析
 これによって波形のピークの位置から、宇宙年齢がわかる.
 パワースペクトルの誤差は2%以下.




 わかったこと
  1)宇宙年齢 138億年
  2)ダークマター・ダークエネルギーの発見




 加速膨張の謎
  とりあえず宇宙がつぶれる心配はなさそう





○CMB の偏光と原始重力波






 ビッグバン以前の急激膨張
  インフレーションが本当にあったかどうか





 宇宙のどちらを見ても同じというのは理解できない











  0.001%の精度で一緒というのは不自然である











 佐藤勝彦によれば:
  宇宙の晴れ上がり後38万年に光の広がる範囲はごく小さい
  ごく狭い小さな宇宙のときに、全体を同じ温度にして、その
   あとでぐっと(アメーバが銀河一個分の大きさに)引き延
   ばせばよい








 ※偏光について


















 インフレーション理論が正しいとすると、CMBに渦巻き
  模様ができる.これをBモード偏光という.





 このBモード偏光の発見をめざして、チリや南極での国際
  競争が激化している
 日本はポーラーベアとクワイアット(現在運用終了)の
  両実験に参加.
 日本からはKEK・IPMU・核融合研・JAXAから、
  20人が参加している
 望遠鏡のそばに停めたトラックの荷台のコンテナに司令室
  がある.
 搭載している超伝導カメラは、20μKの温度差が計測できる.


 偏光検出器を搭載した望遠鏡で宇宙を観測し、
  CMBのパワースペクトルをとる























○ポーラーベアーの話
 ポーラーベアのポーラーは、偏光polarization から取ったもの





 ポーラーベアが設置されているチリへ行くには
  日本からは直行便がない.アメリカかヨーロッパで乗り継
   いでサンチャゴへ行く.国内線に乗り継いで約1000km北の
   カラマに向かう.ここから車で一時間のサンペトロデ
   アタカマへ行く.
  標高2400mのところに前線基地がある.途中にはリャマ・
   ビクーニア(南米の高原にいるラクダ科の動物)がいる.
   標高4000mを超えると動植物は見えない

 ポーラーベアが設置されている標高5000mでは
  空気の量は地上の二分の一、酸素マスクがいる.




 夜は星空・天の川がきれいである.









































 2014年3月17日にBICEP2(南極に設置)が原始重力波起源
  のBモード偏光を発見したと発表したが、のち誤りで
  あったとわかった.
















 探索の時代から観測の時代へとなり、Bモード偏光を
  使った宇宙論の夜明け





 POLAR BEAR-2 受信機システムの開発
  原始重力波の強度 r<0.01の精度で測定
  インフレーション理論のモデル絞り込み
  仮説から法則に高めるために不可欠の観測















 LiteBIRD衛星計画 2024年頃
  原始重力波の強度 r<0.004の精度で探索
  これで見つからなければ、インフレーションモデル
   は棄却される.









◎まとめ

 「インフレーション」は次回のお話しへ.





参考書籍  小松英一郎,川端裕人『宇宙の始まり,そして終わり』     日経プレミアシリーズ新書 2015・12・9発行  950円+税    羽澄昌史『宇宙背景放射 ー「ビッグバン以前」の痕跡を探る』     集英社新書 2015・10・21発行   720円+税