2016年2月20日 第599回 月例天文講座 

宇宙背景放射の50年 - 
  インフレーション宇宙の重力波とPOLARBEAR

              高エネルギー加速器研究機構,長谷川雅也先生

◎講演要旨

 宇宙はビッグバンと呼ばれる熱い火の玉の様な状態で始まり、それが膨張して現在の姿になったと考えられている。この熱い火の玉の残光は現在も宇宙のあらゆる方向から我々のところに飛んできており、宇宙背景放射と呼ばれている。歴史的には宇宙背景放射の発見によりビッグバンの実証がなされた。では、その熱い火の玉はどのようにしてできたのだろうか?現在その最も有力な”仮説”が佐藤勝彦氏らによって提案されたインフレーション理論である(図1)。
 インフレーション理論によれば、ビッグバン以前に宇宙が急激に膨張した時代があり、その時にたくわえられたエネルギーによってビッグバンが引き起こされたと考えられる。しかし、インフレーションが本当にあったのか、もしあったとしてそのインフレーションがどれほどに急激だったのか、実際はほとんど何もわかっていない。
 ビッグバン以前に何が起きたのか、というとても魅力的な問いに対して答えを出すために、インフレーション時に発生する原始重力波を宇宙背景放射の観測を通してとらえようという試みが行われている。重力波とは時空の振動が伝わる波のことで、一般相対性理論を提唱したアインシュタインにより予言された物である。この重力波が宇宙背景放射の偏光に「Bモード」という渦巻き状の特殊な模様を作り出すと考えられている(図2)。このBモードをとらえて、インフレーションの決定的な証拠をつかむ!というのが宇宙背景放射あるいは現在の宇宙研究の最先端である。この世紀の大発見を目指して、日本でも本格的に宇宙背景放射を観測する研究グループ(KEK-CMBグループ)が立ち上がり、南米チリのアタカマ高地で本格観測(POLARBEAR実験)を始めている。
 本講演では、まず宇宙背景放射について発見前夜から現在の最先端の観測データを一気に概観し、現在の宇宙像を研究者がどの様に実証して来たか、またビッグバン以前の宇宙(インフレーション)についてどの様に探ろうとしているかを紹介する。後半は、現在世界中で行われている実験について、特に我々のグループが推進しているPOLARBEAR実験を中心に紹介する。

          
     図2. Bモード偏光とよばれる偏光は、
     図のような渦巻き模様のパターンに
     相当する。

 図1. インフレーション理論の描く宇宙。
宇宙初期の急激膨張がビッグバンの引き金に
なったとされる。