第50期 駿台天文講座  第589回講演  講演要旨
           JAXA名誉教授, 子ども.宇宙.未来の会 会長  平林 久 

1960年代の天文学の衝撃


 1960年代は天文学にとってたいへんな発見が続いた時代です。このうち、電波天文
学に関わるものだけをあげると以下のようになります。
 1963 3C273 クェーサー
 1965 宇宙背景放射(CMB:Cosmic Microwave Background) 
 1967 パルサー発見 
 1969 カニ星雲にパルサー
 まさに、1960年代の衝撃といっていい時代です。そして、駿台天文講座はこのよう
な時代の1966年に始まったのです。わたしは、ちょうどこの時代に、大学、大学院の
学生で、天文学、電波天文学へと舵をきっていたのです。

 そして、CMBとパルサーに関しては、その後以下のように4件ものノーベル物理学賞が
授与されています。
 1974 ライル ヒューイッシュ 電波望遠鏡の開発、パルサー(中性子星)発見
 1978 ペンジアス ウィルソン CMBの発見
 1993 ハルス テイラー    重力波のパルサーによる間接検出
 2006 マザー スムート    CMBのスペクトルとムラ

 講演では、まずクェーサー、CMB、パルサーの発見の物語について語ります。そして、
それが引き続く大きな進展、現在のさらなる謎へとつながっています。したがって1960
年代の衝撃は、今も続いているのです。

 クェーサーの発見によって、わたしたちの宇宙観は大きく広がりました。クェーサーは
銀河の中心での特異な現象だと理解されるようになりました。そして、クェーサーの発生
エネルギーの謎、大規模なジェット現象、超巨大ブラックホールの存在、銀河と銀河中心
の巨大ブラックホールの生成の謎へと続いています。

 想像もできなかったパルサーの発見によって、巨大原子核のような中性子星の存在が
確認されました。これは、さらにつぶれたブラックホール星の発見につながって、超新星
爆発とコンパクト星の物理へとひろがっています。正体がようやくわかってきたガンマ線
バースト源にもつながります。最近、不思議な電波バースト(SRB; Short Radio Burst)
が数例見つかっているのですが、正体がまったくわかっていません。1000分の1秒ほ
どの短い電波パルスを1発だけ出して消えるのです。これからどんな展開になるのでしょう。

 CMB(マイクロ波宇宙放射)の発見は、ビッグバン宇宙の考えを決定的にしました。も
はや宇宙は定常ではありません。これがまたインフレーション理論を生み出させました。
CMBの観測の重要性から、地上の適地(高地や南極など)、バルーン、衛星(COBE, WMAP, 
Planck)などで精密観測が続けられてきています。さらに、高精度の観測でインフレーション
時の重力波の跡(Bモード偏光)が見つけられるでしょうか。