2016年1月16日 第598回 月例天文講座 

天体写真アーカイブ ー 過去の天体写真乾板のディジタル化

               一橋大学名誉教授 駿台学園天文講座顧問 中嶋浩一

◎はじめに

本年もどうぞよろしく.自己紹介,および趣旨説明.
 → 天文学の専門は「データベース天文学」
   旧東京天文台(現国立天文台)にいた時は「位置天文学」の研究に携わっていた.
   30年前に一橋大学に移ってから,「データベース天文学」を始めた.
   1992年には,後出の,フランス「ストラスブール天文台」に出向.

   これに関連して,2014年度は「メシエカタログ」,2012年度に「理科年表」の話をした.
   今回は(あまり最先端の分野ではないが)専門分野の実際の内容・仕事についてお話し
   したい.


◎データベース天文学とは

天文データのデータベース化の重要性  → 観測装置の大型化や宇宙利用など多大な費用や国際協力を要する観測が増えてきた.  → これらの貴重かつ大量のデータは,天文研究コミュニティの共有財産である.    → 誰でも容易に利用できるように整備・公開されねばならない. ○インターネットを有効に利用してデータベースが広くかつ容易に使えるように  → データの利用ソフトや,Web2.0 と言われる技術の開発が重要.  → 「仮想天文台 (Virtual Observatory, VO)」の登場.    → 日本の VO センター, JVOデータベースを積極的に利用した研究を推進することも重要  → SDSS の例:    だれでも使える天体画像データベース M13 の例SDSS の天文学研究  → 20億光年の宇宙の地図,「泡構造宇宙」(最新のデータの整備や,データ利用の天文研究も重要だが)  過去の天文データの発掘・収集・整備・公開も(地道な作業だが)たいへん重要  → フランス,ストラスブール天文台,天文データセンター (CDS) の仕事    → 1972年から,天文データの収集・整備・公開を行ってきた.      現在では,Simbad, Aladin, VizieR などの,データベース利用ウェブサービスを提供.     ※ 誰でも使えますが,使い方の質問などは,ブログから中嶋にお問い合わせ下さい.      VizieR には,現在 14,252個の天文カタログ・表データがある. ○天体画像データ  → 近年の大型サーベイ観測(全天,あるいは広い天域をくまなく観測すること)の映像は,    上記のような理由で整備・公開が進んでいるが,過去の写真撮影時代の画像データは    未整備.  → パロマー山天文台のシュミット望遠鏡,および南半球の UKシュミット望遠鏡による    全天写真サーベイはディジタル化され,ディジタイズド スカイ サーベイ (DSS)    データアーカイブとして公開されている.    → 約2500枚,ディジタイズの時間は 1枚7時間!    ※ パロマー,シュミット写真の例: M8, 干潟星雲付近(赤色フィルター)       同,拡大

◎天体写真画像データのディジタル化

天体写真画像データのディジタル化の国際的取り組み  *まず,天体写真がどこにどれくらいあるか,リストのデータベースを作る.   → ブルガリア,ソフィア天文台の WFPDB-SOFIAデータベース     → 117箇所,640,000枚の写真のデータベース  *国際天文学連合としての取り組み.   → 旧 Division IX, Commisions No.5,No.9 の共同研究.     Task Force Preservation and Digitization of Photographic Plates.   ※ 昨年の総会で,組織が大幅に改編され,この研究グループはまだ未組織.  *AstroPlate Wiki の取り組み.   → 2014年,プラハでワークショップが開かれた. 写真   → 2016年3月にも行われる予定.ホームページ各地の取り組みの例  *ハイデルベルク大学天文台   → 数人でチームを作って取り組む.  *スミソニアン天文台   → 目標 50万枚!  (以下略)

◎木曽観測所,シュミット写真プレートのディジタイズ計画

木曽観測所について   → 東京大学大学院理学系研究科付属天文学教育研究センター,木曽観測所 紹介ページ       1974年設置,一昨年40周年を迎えた.   → 新たに設置された CCDカメラで撮影された,ばら星雲の写真がある.     (本年のカレンダーとして配布)   ※ テレビドラマ「木曽オリオン」 2月6日(土)午後3時,NHK全国放送 ○シュミット望遠鏡   → 木曽観測所の大型シュミット望遠鏡:  完成時の写真  説明     → シュミット望遠鏡の特徴は,広い視野にわたってシャープなイメージが       得られること.反射望遠鏡に現れる「コマ収差」を除去する工夫.       コマ収差, 補正板     撮影された天体写真(6°x6°) → コピーを回覧      → 1974〜1998年までに7035枚を撮影. 乾板の保管状況     シュミット望遠鏡で撮影したヘール・ボップ彗星 (1997 Apr.) ○ディジタイズ作業   → 担当: 中嶋,宮内,および木曽観測所の皆さん.   → A3判フラットベッドスキャナ (EPSON ES-G11000) + 透過光照明装置 を使用.       作業状況     大型乾板全体は入らないので,下端約5mm程度を犠牲にする. (彗星の図,参照)     写真粒子は 10μm 程度の大きさなので,測定精度は 2400dpi が理想だが,スキャンに     時間がかかること(20分)と,データ量が多い(1GB)ので,1200dpi とする.     → 1枚あたり,測定時間10分,データ量250MB.   → 8月に始めて,これまでに約400枚スキャン.       No.1〜No.50 までのサムネイル

◎過去のデータを利用した研究

最も古い天文画像データ   → キトラ古墳,天文図     → あまり正確ではないらしい. ステラナビゲータで作成した比較画像日本最古の星野写真   → 国立天文台の天体写真アーカイブで発見された. 国立天文台,アーカイブ新聞    565号, 567号, 解説記事FUor型変光星の確認   → 木曽観測所,三戸洋之さん他,国際研究   ポスターKUGプロジェクト   → 故高瀬文志郎先生と宮内良子さんの研究で,木曽シュミット望遠鏡を用いて,     青い光の強い銀河をサーベイする(中嶋も協力).        ホームページ      → まだ過去の画像を利用する段階まで行っていない.

◎駿台天文講座,50年の歴史

天文講座,記録(Excel ファイル)   → 初回は 1966/4/22 村山定男先生.     天文講座スーパーバイザー,鏑木政岐先生は第5回,1966/8/26.     前述のKUG,高瀬文志郎先生は第9回,1966/12/23.     天文講座の最大の功労者,磯部琇三先生の初回は第16回,1967/7/28.     磯部先生の後を引き継がれた平林久先生の初回は第62回,1971/5/22.     「オジサン」こと森本雅樹先生の初回は第68回,1971/11/20.     駿台学園創立50周年記念では,国際天文学連合会長バプー博士,1981/7/3.     落語家,柳家小ゑん師匠は第388回,1998/7/18 と第484回,2006/7/15.     プロボクサー日本ウェルター級第41代チャンピオン,小林秀一氏は第473回,       2005/8/20.     第500回記念は,ノーベル賞の小柴昌俊先生で,2007/11/17.   → 講座の発足より40年間お世話をされた磯部さんを忘れることはできない.     磯部さん,アルバム(クリックで拡大).