2016年1月16日 第598回 月例天文講座 

天体写真アーカイブ ー 過去の天体写真乾板のディジタル化

               一橋大学名誉教授 駿台学園顧問 中嶋浩一

◎講演要旨

 講演者(中嶋)の天文学研究テーマは「データベース天文学」であるが,これまでの月例講演では,これに関連して『理科年表』や『メシエカタログ』などを紹介してきた.今回の講演では,講演者の最近の研究テーマである「天体写真アーカイブ」を紹介する.

 まず「データベース天文学」についてであるが,これは以前にも説明したように「天文学の観測データを収集・整備・公開することを追求」する天文学の一分野である.もちろん,これらの整備された観測データから浮かび上がってくる宇宙の姿を描き出すことも,主要な研究テーマである.これの典型的な具体例として「SDSSプロジェクト」が挙げられるが,講演でまずこれを紹介する.

 近年天文データベースが重要視されるようになったのは,観測装置の大型化や宇宙利用など多大な費用や国際協力を要する観測が増えてきていることによる.これらの貴重かつ大量のデータは,天文研究コミュニティの共有財産とみなされるべきであるという観点から,誰でも容易に利用できるように整備・公開されねばならないと考えられるようになった.インターネットの普及も,この趨勢に拍車を掛けている.

 インターネットの普及はまた,「過去の天文データ」の発掘・収集・整備・公開をも促進することになった.これに関しては,ストラスブール天文台付属の「ストラスブール天文データセンター(略称 CDS)」が早くから(インターネット普及以前から)精力的な活動を行ってきており,「天体カタログ」に代表される数値データ(ディジタルデータ)については高度なデータベースがCDSにおいて構築されている.もちろん,このデータベースの利用サービスもよく整備されている.

 これに対し,「天体写真」として保存されている過去の画像データは,ディジタル化にかなり大変な作業が必要であり,またディジタル化作業は写真の保管場所でしか行うことができないこともあって,あまりデータベース化が進んでいない.とりあえず,「パロマチャート」と呼ばれる応用の広い写真データは,「ディジタイズドスカイサーベイ(略称DSS)」として整備されたが,個々の天文台が保管している過去の天体写真などは,まだまだ整備途上であると言って良い.

 これに関し日本では,国立天文台の天文情報センター,アーカイブ室が,東京帝国大学東京天文台の時代からの写真乾板の整理とディジタル化を進めており,その中でまたいろいろな発見もあった.これについても,講演で少し詳しく紹介したい.

 また大型の天体写真乾板として「シュミット望遠鏡」の天体写真があるが,日本ではこれが「東京大学大学院理学系研究科付属天文学教育研究センター,木曽観測所」に数多く(7000枚以上)保管されており,これのディジタル化が望まれていた.しかしこの写真乾板は,写野だけでも34cm✕34cmあり,通常のスキャナでは対応できず作業はなかなか開始されなかった.しかしこのほど,木曽観測所にA3判の大型透過光フラットベッドスキャナが導入され,部分的ではあるが乾板のディジタル化が可能となった.そこで講演者他(中嶋,宮内,および木曽観測所の各氏)が,この作業を昨年より開始した,というのが現状である.

 講演では,このディジタル化の作業を紹介し,併せて木曽観測所の大型シュミット望遠鏡についても解説する.

 なお講演の後半に少し時間を割いて,駿台学園月例天文講座の50年を簡単に振り返ってみたい.


         木曽観測所,シュミット望遠鏡で撮影したヘール・ボップ彗星 (1997 Apr.)