第50期 駿台天文講座  第590回講演  講演要旨
             東京大学教授     須藤 靖 先生

系外惑星から宇宙生物学へ


 我々の太陽系以外に惑星系が存在する事が初めて科学的に証明されたのは今からわずか20年前の1995年。以来、系外惑星研究は急激な進歩を遂げ、報告された惑星の数は約3000にも及ぶ。その大半は木星のようなガス惑星であるが、地球の1〜2倍の半径を持つ岩石惑星、さらには水が液体として存在できる温度範囲にあると推定されている岩石惑星候補も10個程度見つかっている。これらはハビタブル惑星と呼ばれ(居住可能惑星と訳される事が多い)、生命を宿す可能性がある候補惑星として期待されている。ひょっとすると我々は地球以外に生命が存在するという歴史的発見の瞬間に立ち会える稀有な時代に生きているのかもしれない。

 とはいっても、それを科学的に証明する事は現在の技術を持ってしても極めて困難である。米国の著名な惑星科学者、故カール・セーガン博士は、太陽系以外に惑星が存在する事がまだ知られていなかった1993年、木星探査を目的としたガリレオ衛星が地球の周りをスイングバイした際の地球の観測データを解析し、大気中に大量の酸素が存在する、植物のレッドエッジに対応する波長0.75ミクロン以上での明るさが増大する、自然界には存在しない人工的な電波信号が発せられている、の3点の検出データをもとに「地球には生命が存在する」と結論した。

 仮に我々の地球と全く同じ「もう一つの地球」が宇宙のどこかにあったとしても、それを空間的に分解することは不可能だ。実際、ボイジャー1号が撮影した我が地球の画像は、同じくセーガンによってペイル・ブルー・ドットと名付けられ、宇宙における地球の存在意義を詩的に表現するとともに、科学的に「もうひとつの地球」の観測がいかに困難かを示している。上述のセーガンの論文は、そのペイル・ブルー・ドットから生命の兆候を引き出すために天文学は何をすべきかを明確に指摘した先駆的なものである。

 仮に、もうひとつの地球が存在すれば、大陸や海、雲という大きな表面構造をもたまま自転しているために、そのドットが示す色が24時間周期で変化する。この色変動パターンを解読することができれば、もうひとつの地球の上にある大陸や海、雲の存在を推定できる。ところで、地上の植物の葉っぱはほとんど緑色であるが、実は目に見えない波長0.75ミクロン以上の近赤外線領域ではほとんどの光を反射している。つまり、近赤外線まで観測すれば植物はあまねく真っ赤なのである。これが上述の植物のレッドエッジで、その際立った特徴を利用すれば、もうひとつの地球にまじるかすかな赤から、植物の存在を知る事ができるかもしれない。我々の最近の研究結果も交えながら、このような系外惑星研究からの宇宙生物学へ至る道についてお話ししてみたい。


関連資料(以下,中嶋記入)

 須藤先生ホームページ
 2014年の講演記録(pdfファイル)

 ペイル・ブルー・ドット (Wikipedia)

 右はカール・セーガンとペイル・
 ブルー・ドット(丸印の中心)の写真
  (Wikipedia のページより)

 テレビ放送大学,金曜日12:00〜12:45,「宇宙とその進化」で,6月末ころから
 須藤先生の講義があるようです.今回の講演に関係するところは,7月17日(金)と
 思われます.