第50期 駿台天文講座  第592回講演  講演要旨
               JAXA 宇宙科学研究所   吉川 真 先生

はやぶさ2の新たな挑戦 


 2014年12月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」が種子島宇宙センターから打ち上げられた。数々の困難を乗り越えて地球に戻ってきた「はやぶさ」の後継機である。打ち上げは予定日よりも数日延びたが順調に行われ、その後、現在に至るまで問題なく運用が続いている。先は長いので全く安心はできないが、新たな挑戦へまずまずのスタートを切った。

 「はやぶさ2」の使命は「はやぶさ」と同様に、小惑星まで行ってその表面物質を地球に持ち帰ることである。ターゲットとなる小惑星は「はやぶさ」が探査したS型小惑星のイトカワとは異なる性質を持つC型の1999 JU3という仮符号の小惑星である。C型小惑星には、その表面物質の中に水や有機物が含まれている可能性が高い。そもそも、このような小惑星から物質を持ち帰る理由は、太陽系が誕生した当時の物質を知るためなのであるが、C型小惑星から物質を持ち帰れば、地球の生命の元になった材料が分かるかもしれない。つまり、「はやぶさ2」の旅は、生命の原材料探しの旅なのである。

 「はやぶさ」では多くのことが世界初であり、お手本がないミッションであった。そのためにいろいろな想定外の出来事や深刻なトラブルに直面したのであるが、「はやぶさ2」では「はやぶさ」というお手本がある。「はやぶさ」で経験したすべてを咀嚼して「はやぶさ2」は設計・製作された。「はやぶさ2」では、是非ともトラブルのないミッションを実現させたいものである。ただし、それだけではない。世界初の挑戦も行う。それは、衝突装置(インパクタ)というものを使って、小惑星表面に人工的なクレーターを作り、さらにそのクレーターの中から物質を採取しようという試みである。このことによって、表面だけでなく地下の物質も採取することができる。表面物質は、太陽光や放射線によって変質している(これを宇宙風化と呼ぶ)が、地下の物質はよりオリジナルに近い物質であるはずである。

 次の大きなイベントは、今年の12月3日の地球スイングバイである。打ち上げからちょうど1年後に地球に接近し、軌道を一気に1999 JU3に近いものに変更する。その後は、小惑星到着まで2年半ほどかかり、2018年の6月から7月頃、小惑星に到着する。そして1年半ほど小惑星に滞在し、2019年末に小惑星から出発し、1年後の2020年末に地球に帰還する予定である。これからどのようなことが起こるのか、心配ではあるが、非常に楽しみである。


衝突装置によって作ったクレーターにタッチダウンする「はやぶさ2」の想像図


関連資料(以下,中嶋記入)
はやぶさ2,JAXA ホームページ
はやぶさ2,特設サイト

図書:『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』,松浦 晋也 著
   『小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦 太陽系と生命の起源を探る壮大なミッション』
     山根 一眞 著,ブルーバックス