2016年12月17日 第609回 月例天文講座 

重力波天文学の幕開け -
   重力波初検出と今後の展開

         国立天文台 准教授 麻生洋一

 2015年9月14日,米国の重力波検出器LIGOによって,ブラックホール連星の合体から放出された重力波が検出された。波形の解析によって,合体したブラックホールは,太陽質量の30倍程度であったことが判明した。合体が起こる瞬間,この現象から単位時間あたりに重力波として放出されたエネルギーは,全宇宙の可視光によるエネルギー放出を全て合わせたものを上回った。また,合体の前後で,太陽3個分の質量が重力波の輻射として失われており,この現象がいかに激しいものであったかを物語っている。LIGOによる約4ヶ月間の観測中には,他にも一件の確実なブラックホール連星合体イベントと,もう一件の有力なイベント候補が観測されている。つまり,この宇宙では巨大ブラックホールの合体が頻繁に起こっているということが分かってきた。これらの観測結果は一方で,どうやってこのような巨大ブラックホールが生まれたのかという謎を我々に投げかけてもいる。今後は重力波によってこのような激しい天体現象が次々と観測される,エキサイティングな時代を迎えると期待されている。

 今回,地球に届いた重力波の振幅は10のマイナス21乗程度であった。これは,地球と太陽の間の距離を水素原子一個分変化させる程度の微小な時空のゆがみである。約100年前,アインシュタインが一般相対性理論を発表した当時,このように微弱な重力波の効果を検出することは不可能であると考えられていた。しかし,技術の発展によってついに人類はこのような超精密計測を行える境地に達したのである。

 今後,より多くの重力波イベントを検出し,波源方向の特定や偏光情報の分離を行うには,地理的に離れた場所に設置された複数の重力波検出器によるネットワークを構築することが必要となる。日本では岐阜県神岡町に,基線長3kmの低温重力波検出器KAGRAが建設中である。KAGRAは,2016年春に常温での試験運転を行い,現在は低温運転を目指して,装置のアップグレード作業を行っている。

 本講演ではまず,今回検出されたブラックホールからの重力波によって何が分かるのか,重力波天文学の可能性について述べる。また,このような微弱な時空のゆがみをどのようにして検出するのか,超精密計測技術について紹介する。最後に,KAGRAの現状,さらなる検出器感度向上へ向けた今後の展望などをお話する。


[参考](中嶋記)
*カットは ANNニュースのページ より,KAGRA の極低温冷却装置
KAGRA ホームページ
国立天文台,重力波プロジェクト推進室
総合研究大学院大学,麻生先生の紹介