2017年1月28日 第610回 月例天文講座 

もうすぐ見える?巨大ブラックホール

         国立天文台 教授 本間 希樹

 巨大ブラックホールは本当に存在するのだろうか?これまでの様々な研究から、どの銀河の中心にも太陽の数百万倍から数十億倍の重さをもつ巨大ブラックホールが存在すると考えられている。しかし、これまでにわかっているのは「重くて比較的小さな天体が存在する」ということであり、その正体が光や物質を一切吐き出すことのない暗黒の天体(=ブラックホール)であるかどうかは確認されていない。ブラックホールの存在を確認するためには、その大きさを分解して撮像できる高い視力を持った望遠鏡が必要である。そのような望遠鏡を用いてブラックホールの写真を撮り、周囲のガスを背景にブラックホールが「黒い穴」として浮かびあがる構造(いわゆる“ブラックホールシャドウ”)を確認することができれば、ブラックホール存在の究極の証明が得られる。

 しかし巨大ブラックホールといっても、その見かけの大きさは非常に小さく、これまでの望遠鏡では観測は不可能であった。このような中、ブラックホールシャドウの撮像を人類史上初めて行うべく、専用の観測網を構築するプロジェクトが国際協力で進行中である。地球規模の電波干渉計観測ネットワークを構築するEHT (Event Horizon Telescope)プロジェクトである。EHTでは、南米や北米、欧州さらにはハワイなど、地球上の様々な場所にあるミリ波サブミリ波帯の電波望遠鏡を組み合わせ、口径9000 kmという巨大な電波望遠鏡を合成する。それによって前人未到の300万という視力を達成し、ブラックホールシャドウを初めて捉えることを目指している。これまでに日本を含め、米国、ヨーロッパ、アジアの様々な国が協力してEHTの観測準備を進めてきており、2017年4月には、チリのアタカマ高地に設置された大型電波干渉計ALMA(Atacama Large Millimeter and sub-millimeter Array)が参加した国際VLBI観測が初めて行われる予定である。そのため、巨大ブラックホールの直接撮像が近い将来いよいよ実現すると期待が高まっている。

 本講演では、現在注目度が高まりつつある巨大ブラックホールについて、これまでの研究成果や未解決で残された謎などについて解説するとともに、EHTプロジェクトで実現が目前に迫ったブラックホールの直接撮像に関して、今後の展望も述べる。


[参考](中嶋記)
*冒頭のカットは,ブラックホールシャドウの想像図(下記,日本の EHT のページより).
EHT (Event Horizon Telescope) ホームページ(英文)
日本の EHT ホームページ
本間先生ホームページ
国立天文台ニュース,2016年12月号に,本間先生が所長をされている「国立天文台水沢VLBI観測所」の特集が掲載されています.