2017年2月18日 第611回 月例天文講座 

レーザーによる宇宙ゴミの除去 (EUSO プロジェクト)

           理化学研究所 専任研究員 滝澤慶之   
1 概要
 講演では、最初に宇宙開発に於いて大きな問題となりつつある宇宙デブリ(宇宙ゴミ)の概要について紹介する。次に、極高エネルギー宇宙線観測用宇宙望遠鏡とEUSO プロジェクトを紹介する。この望遠鏡は、理化学研究所の戎崎俊一主任研究員らが提案している「レーザーによる宇宙デブリ除去システム」に応用することができる。最後に、我々が提案している「宇宙デブリ除去システム」について解説する。

2 宇宙デブリ問題
 宇宙デブリは、宇宙開発の重大な障害になりつつあり、広視野・高速・高感度望遠鏡と高輝度宇宙レーザーを組合せた宇宙デブリ脱軌道法を提案している([1]、図1)。
 最初の宇宙機が打ち上げられて50年以上が経ち、数千回の打上げにより、数千トンに及ぶ人工衛星とロケットが宇宙に送り込まれた。その過程でたくさんの不必要な物体が軌道に残留した。これらは、ロケットの最終段、機能しなくなった衛星およびその破片である。これらを宇宙デブリと呼ぶ。その軌道運動速度は、低軌道(LEO)で7-9 km/s、36,000 kmの高度の静止軌道でも3 km/sと非常に速い(ライフル弾でも、0.7 km/s程度である)。それらが、衝突すると運用中の衛星や宇宙ステーションに重大な損害を与える可能性がある。実際、過去10年間に、Iridum33、Cosmos2251などの人工衛星がデブリによって損害を受けている。1993年には宇宙機関間委員会が設立され、宇宙デブリの抑制に向けた話し合いを始めているが、抜本的な解決は策定さていない。今後増え続ける宇宙デブリに対して、現実的で実現可能な除去方法が求められている。

3 極高エネルギー宇宙線観測用宇宙望遠鏡(EUSO プロジェクト)
 レーザーによる宇宙デブリ除去プロセスは、検出、追尾、レーザー照射の三段階に分かれる。検出には、広視野・高速・高感度望遠鏡(EUSO望遠鏡)を活用する。
 EUSO(Extreme Universe Space observatory)プロジェクトは、宇宙から到来する1020電子ボルト(eV)を超える極高エネルギー粒子の起源を探る計画である。極高エネルギー粒子は、地球の大気の原子核と衝突して主に電子・陽電子・ガンマ線からなる空気シャワーを形成する。EUSO望遠鏡は、このとき励起された窒素分子から放射される蛍光紫外線を数マイクロ秒の時間間隔で撮像し、空気シャワーの発達を三次元的に再構築し、そのエネルギーと到来方向を決定する。

4 レーザーによる宇宙デブリの除去システム
 宇宙デブリは、そのサイズによって、直径1 cm以下、1 cm - 10 cm、10 cm以上の3種類に分類できる。このうち1 cm以下の宇宙デブリは、遮蔽により損傷を防ぐことが不可能ではないとされている。また、10 cm以上は地上からのレーダー観測でカタログ登録され、軌道要素が決まっているので、宇宙機は軌道を変えて回避することができる。しかし、これらは小さなデブリの源になるので、適切に管理し早期に脱軌道することが望ましいとされている。一方、1 cm – 10 cmの宇宙デブリは、遮蔽による防御が困難で、地上からのレーダー観測によるカタログ化が進んでいない。さらに、100万個に近い数が存在しており、もっとも危険と認識されているが、その数を直接減らす有効な方策は、見出せていなかった。これに対して、我々は、実現可能な案を初めて提案した([1]、図1)。それは、1 cm以上のデブリを、レーザーアブレーションを利用して脱軌道する手法である。宇宙デブリにレーザービームを照射すると、その照射点でプラズマ化した物質が高速で噴出し反力が生じる。この反力により減速し、1-10 cmのデブリを地球大気へ脱軌道させることが可能である。

[1] Ebisuzaki,T. et al. 2015, Acta Astronautica, doi:10.1016/j.actaastro.2015.03.004


[参考](中嶋記)
*冒頭のカットは,JEM-EUSO 解説ページより.
*理化学研究所のプレスリリース(2015年4月).
*広視野宇宙望遠鏡,JEM-EUSOの説明ページ.
*滝澤先生のEUSO解説.