2017年7月15日 第616回 月例天文講座 

アルマ望遠鏡で探る星々のルーツ

        国立天文台チリ観測所  平松正顕

 近年、太陽以外の恒星のまわりを回る惑星(太陽系外惑星)の研究が大きな盛り上がりを見せている。1995年の最初の発見以来、総発見数は3000を超え、地球と同じようなサイズの岩石惑星や、主星からの距離が程よく水が液体で存在できる可能性がある「ハビタブルゾーン」に位置する惑星も多く見つかってきている。

 太陽系外惑星の研究が進むにつれ、その多様性が明らかになってきた。いろいろな惑星ができるのはなぜか、地球のような惑星はどんな条件下で作られるのか、こうした謎に答えるには、星や惑星が作られるようすをくわしく観測する必要がある。

 星や惑星は、星々のあいだに漂う希薄なガスと塵の雲の中で作られる。この雲は星の光をさえぎるだけでなく、超低温であるために自ら光を出さない。このため、雲の中や向こう側でどんなことが起きているのか、光をとらえる望遠鏡で調べることは難しい。しかしこの低温の雲は電波を出し、また電波は雲を通り抜けて来るため、電波望遠鏡を使えば暗黒の雲の中で静かに進む星と惑星の誕生を捉えることができる。

 数ある電波望遠鏡の中でも、2011年に観測を開始したアルマ望遠鏡の活躍は目覚ましい。日本を含む22の国と地域が共同でチリに建設したアルマ望遠鏡は、パラボラアンテナ66台を直径16kmの範囲に展開しそのデータを合成することで、山手線の大きさに匹敵する巨大電波望遠鏡として機能する。その解像度は人間の視力に例えれば「視力6000」に相当し、大阪に落ちている1円玉の大きさを東京から見分けられるほどの能力となる。

 アルマ望遠鏡は、その高い解像度と感度で、数々の原始星や原始惑星系円盤の詳細な姿を描き出してきた。生まれて100万年と考えられるおうし座HL星を取り巻く円盤には、幾重にも隙間が刻まれており、ここですでに惑星が形成されつつある可能性が指摘されている。また1000万歳のうみへび座TW星のまわりの塵の円盤には、地球の公転軌道と同じ半径の位置に隙間が見つかり、地球に似た惑星がここでできている可能性もある。多様な太陽系外惑星の元となる、多様な原始惑星系円盤の姿も明らかになってきている。

 さらにアルマ望遠鏡は、こうした生まれたばかりの星の周囲に複雑な有機分子が存在することも明らかにしてきた。複雑な有機分子をもとに生命が誕生するまでの道筋は未解明だが、少なくとも生命の材料は普遍的に存在するということを、アルマ望遠鏡の観測は示している。



[参考](中嶋記)
*右上カットは,アルマギャラリー、山頂施設のページより。
平松先生webページ
アルマ望遠鏡ホームページ
おうし座HL星の画像
うみへび座TW星の画像