2017年4月15日 第613回 月例天文講座 

宇宙ゴミ除去のビジネス化を目指して

        アストロスケール・エンジニア 瀨戸 裕基

1. 人類の宇宙進出

 「宇宙進出」と聞くと,ものすごく壮大で,自分たちの日常からはかけ離れたもののようなイメージを持ってしまう方が多い.しかし,宇宙開発はみなさんが思っているよりもずっと身近なところにある.例えば,みなさんが毎日当たり前のように利用しているであろう,天気予報やスマートフォンアプリの位置取得サービス,そして2020年に開催される東京五輪の映像をリアルタイムで地球の裏側に届けられるのも,実は全て宇宙開発の恩恵によるものである.しかし今,こうした「当たり前」が「宇宙ゴミ(スペースデブリ,デブリ)」により,危険にさらされている.「宇宙のゴミ問題」は,私たちの日常を揺るがしかねない重大な問題なのである.

2. 宇宙のゴミ問題

 前章で述べた天気予報や位置取得サービスを可能にするのは「人工衛星」の技術である.「人工衛星」とは地球の周りを周回する人工物体のことで,私たちは人工衛星に画像取得や通信,測量の機能を付与し利用している.その数は,地上からの観測により存在を認識されている物体だけでも約23000個にもなる.しかし,実はこのうち現役で運用されている衛星は僅か1000機ほどである.それ以外の,もはや不要となった人工物体のことを「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」と呼ぶ.また,宇宙ゴミには,運用を終了した衛星の他にも,衛星を打ち上げるために使ったロケットの一部や,衛星やロケットが破砕して生じた破片等の物体が含まれる.1cm以下の地上から観測できない物体(微小デブリ)の数はもはや正確には分からず,数千万個にも達するとされている.人工衛星は秒速7〜8kmもの速さで地球の周りを周回しているため,1cm以下の小さな物体であっても,運用中の人工衛星に衝突すればひとたまりもないのである.

3. デブリ除去のビジネス化

 (株)アストロスケールは私たちの未来の世代の安全で持続可能な宇宙に貢献することをミッションとし,2013年に設立された.民間で宇宙ゴミ問題に取り組みビジネス化を目指そうとする企業は世界初であり,未開拓の市場,ビジネスモデルを開拓していくことになる.本講演は,宇宙のゴミ問題の現状について理解を深めていただくことともに,アストロスケールが今後いかにしてデブリ除去をビジネス化していくか,具体的に以下の3点を例にとり説明する.

* IDEA OSG 1(イデア オーエスジー ワン)による微小デブリの軌道上観測サービス
* 運用を終了する人工衛星のEnd-of-Life(EOL:エンド-オブ-ライフ)サービス
* 既存デブリの除去サービス


[参考](中嶋記)
*右上カットは,アストロスケール社ホームページより,ELSA-d 衛星.