2018年2月17日 第623回 月例天文講座

重力波天体が放つ光の初観測 ー
金やプラチナの誕生現場、中性子星合体ー

    国立天文台 助教 田中雅臣 
(右は GW 170817 の可視光赤外線対応天体,クリックで拡大)


 2017年 8月 17日にアメリカの重力波望遠鏡 Advanced LIGO とヨーロッパの重力波望遠鏡 Advanced Virgo によって、中性子星合体による重力波(GW170817)が初めて観測されました。さらに、世界中の天文観測グループによって、重力波を放った天体の電磁波観測が成し遂げられました。日本でも、重力波追跡観測チーム J-GEM が国立天文台のすばる望遠鏡、名古屋大学の IRSF 望遠鏡などによって重力波源 GW170817 の光赤外線追跡観測を行いました。その結果、重力波源に対応する光赤外線対応天体を捉え、その時間変化を詳細に観測することに成功しました。重力波観測と電磁波観測の協調による「マルチメッセンジャー天文学」の幕開けとなる歴史的イベントといえます。

 中性子星合体では鉄より重い金やレアメタルなどの元素を合成する過程である「r プロセス」が起き、新たに作られた元素の放射性崩壊によって電磁波が放出されること(通称「キロノバ」)が国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」を使ったシミュレーションなどによってかねてより予測されていました。GW170817で観測された光赤外線対応天体の性質はキロノバ放射の理論計算とよく一致しており、これらの研究成果は中性子星合体で金などの重元素合成が起きたことを強く示唆するものです。宇宙における「rプロセス」元素の起源は天文学における長年の謎であり、今回のイベントは元素の起源の解明に向けても大きな一歩となりました。

 本講座では、ついに実現した重力波源の電磁波観測の結果とその意義についてお話しします。


[参考]
*右上カットは,国立天文台,ニュースのページより.
国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトのページ
すばる望遠鏡,プレスリリースのページ