2018年1月20日 第622回 月例天文講座

天体の地球衝突問題とその対応 

     JAXA 宇宙科学研究所 准教授  吉川 真  


  (右は太陽系外天体オウムアムアの軌道,クリックで拡大)


 天体の地球衝突問題を考える「スペースガード(Spaceguard)」という活動が本格化したのは1990年代後半からであるから、すでに20年が過ぎた。最近では、「プラネタリー・ディフェンス(Planetary Defense)」と呼ばれることも多くなってきている。スペースガードというと文字通りには宇宙を守ることになるので、プラネタリー・ディフェンスと言った方がより的確であろう。さらに言えば「アース・ディフェンス」なのであるが。
 この20年間、スペースガードあるいはプラネタリー・ディフェンスでは大きな進展があった。第一に、小惑星の発見個数が飛躍的に増えたことが挙げられる。手元にある古いプレゼン資料を見てみると、2000年5月初めの時点で、発見されている小惑星の個数は72383個(うち確定番号付きは14788個)で、地球接近小惑星(NEOに分類される小惑星)は997個となっている。現在(2018年1月)では、小惑星は約75万個(うち確定番号付きは約51万個)が発見されており、その中の地球接近小惑星は1万7千個あまりになっている。第二の大きな進展は、小惑星や彗星などの太陽系小天体について理解が大きく進んだことである。これは望遠鏡等による天文観測に加えて、惑星探査による寄与が大きい。2000年より前では、ハレー彗星やガスプラ、イダ、マティルドなどの小惑星についてフライバイによる写真が撮られていただけに過ぎなかったが、その後「はやぶさ」をはじめとして太陽系小天体への様々な探査が行われ、小天体の素性もかなり理解されるようになった。そして、第三として2013年のロシアのチェリャビンスクの隕石が挙げられる。人類として久々に天体衝突による大きな被害を受けることになった出来事である。
 このような状況のもとで、天体衝突についてどのように対応するかの議論も大きく進展してきた。2000年前後から国連の宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で国際的な対応について議論が始まり、2013年にはIAWN(International Asteroid Warning Network)とSMPAG(Space Mission Planning Advisory Group)が発足し活動を開始した。IAWNの方は地球に衝突しうる天体の観測を強化していこうとするものであり、SMPAGの方は実際に地球に天体が衝突するときにどのように対応するかを検討するものである。さらには、天体の地球衝突問題を議論する国際会議Planetary Defense Conferenceや一般の人にこの問題を広く知ってもらおうとするAsteroid Dayという活動も活発化してきている。
 この講座では、天体の地球衝突問題をメインテーマにしながら、太陽系外から来たと考えられるオウムアムアなど太陽系小天体についての最新の話題について紹介する。


[参考](中嶋浩一記)
*右上カットは,Wikipedia のページより.
*2017年,東京で開かれた プラネタリー ディフェンス コンファレンスのページ
  (吉川先生がホストを務められました)