2018年9月15日 第630回 月例天文講座 

星雲遭遇と恐竜絶滅
  ー 巨大隕石衝突だけではなかった

  日本スペースガード協会 研究員   二村徳宏  


1. 宇宙が地球へ与える影響
 私たちの住む太陽系は、天の川銀河の円盤の端にあり、約2億年の周期で回転し、銀河面を約3,000万年周期で通過している。そして、暗黒星雲(=分子雲; 以下、単に「星雲」と表記)もこの天の川銀河内に分布している。星雲とは高密度および低温のガスと塵からなる天体であり、地球が誕生してから約46億年の間に度々遭遇したと考えられている。Maruyama and Santosh (2008)は、いくつかの地球の大規模な環境変動は、地球外、太陽系外、または銀河系外に要因があると指摘した。そして、星雲遭遇についても地球に壊滅的な環境変動を起こすことが過去の多くの研究により示されている。Kataoka et al., (2013), (2014) は、星雲遭遇により宇宙から地球へ宇宙塵が供給され日射遮蔽・寒冷化が生じること、また、それによる宇宙線照射量の増加に伴いオゾン層が破壊されるなどの環境変動の見積もりを行い、その結果、地球全球凍結や大量絶滅が起こることを指摘した。
 それでは、実際にこの地球が星雲に遭遇した証拠はあるのだろうか?そして、そのとき、一体、地球に何が起こったのであろうか?

2. 深海底にあった星雲遭遇の証拠
 私たちは、北太平洋の深海底掘削コア試料から5 m以上の幅広い(長期間の)イリジウムの分布を発見した。これは地球外物質の寄与がないと説明することができないものであった。この試料の解析により、白亜紀末の約800万年の間、星雲が太陽系に遭遇したと結論付けた。そのとき、大量の宇宙塵が地球に供給され、強い寒冷化である「星雲の冬」が生じた。そして、恐竜をはじめとする生物の大量絶滅が起こった。イリジウムはこのときの宇宙塵によるものである。このことは、恐竜やアンモナイトの化石により導かれた絶滅率データと時期・期間ともによく合う結果であった。

3. 流行の巨大隕石衝突説
 白亜紀末の大量絶滅について広く流行している説は、約6,550万年前の巨大隕石衝突によるものである。しかし、巨大隕石による寒冷化は約5年と短く、恐竜という目レベル全体の絶滅を説明することは難しい。また、白亜紀末以外にも地球には巨大隕石は衝突しており、そのときの環境変動は確認されていない。このようなことから、巨大隕石衝突のみでは大量絶滅を説明することは困難である。

      恐竜の化石


      右は,暗黒星雲を通過する太陽系の模式図
      (太陽系の大きさは約100倍に拡大)


[参考](中嶋記)
*右上カットは,草の実堂のページより.
天文月報記事