2018年7月21日 第628回 月例天文講座 

O Sole Mio!

    国立天文台名誉教授  渡邊 鉄哉



 1980 (昭和55) 年4月に東京大学東京天文台 (当時) に入台して以来38年間に亘り、 飛翔体を用いた太陽の紫外線・X線観測に携わってきた。

 地表までは到達しない紫外線やX線を使って太陽を観測することが、なぜ重要なのだろうか? -それは、太陽が放射している光 (電磁波) の強度分布に秘密がある。 ロケットや人工衛星といった飛翔体が開発された直後から、望遠鏡を載せて地球大気の外側から 太陽を観測することが行われるようになった-すると、太陽から予想を超えた強い紫外線・X線が 放射されていることが分かったのである。太陽表面(光球)の温度はおよそ6千度といわれるが、 この光球からは観測されるような強い紫外線やX線は決して放射されないのである。

 入台した翌年、1981 (昭和56) 年の2月に打ち上げられた「ひのとり」は重量僅か195 kgの スピン衛星だったが、NASAが打ち上げた重量2tを超えるソーラーマックス (SMM) に伍して活躍し、 太陽フレアについての大きな科学的成果を挙げることができた-これによって欧米との国際協力が 大きく進展することとなった。1991 (平成3) 年の夏に上がった「ようこう」は高精度の衛星3軸制御 により太陽コロナの連続観測を行い、X線では初めて太陽周期活動の約1周期分に相当するデータを蓄積 することができた。2006 (平成18) 年の秋分の日に打ち上げられた「ひので」は太陽同期極軌道に投入され、 可視光から紫外線・X線に及ぶ高解像度の撮像・分光観測を実施している。打ち上げから12年目突入したが、 未だに貴重なデータをとり続けている。

 このように紫外線やX線で太陽を観測すると、穏やかにほぼ一定の明るさで輝いている光球ではなく、 皆既日蝕の時以外は見ることができなかった太陽コロナやその中で発生する太陽フレアといった荒々しく 激しく変化する太陽の姿(磁気活動といいます)を捉えることができるのである。この太陽の磁気活動は、 最近では人間の社会システムにも影響を及ぼすことが明らかになってきている。

 日本が打ち上げた3つの太陽観測衛星を用いて得られた研究の成果を知って戴くことで、「母なる太陽」 の不思議さを更に実感して戴けたら幸甚である。


[参考](中嶋記)
*右上カットは,国立天文台,太陽観測プロジェクトの紹介ページより.(クリックで拡大.)
太陽観測プロジェクトのホームページ
「ひので」ホームページ

イタリア民謡「オーソレミオ」(ルチアーノ・パヴァロッティ,ユーチューブより)