2018年6月16日 第627回 月例天文講座 Mars 23 aug 2003 hubble

火星の接近を迎えて

     月惑星研究会  田部 一志


1 火星が15年ぶりに大接近を迎えます。前回2003年の接近が65000年ぶりと喧伝されたのに対し、今年の接近は地味な感じがしますが、それでも既にマイナス2.5等級でいて座とやぎ座の間で輝いています。最接近の7月末には南の空に赤く妖しく輝く火星が誰の目にも捉えられるようになります。

2 火星はその赤い輝きから、西洋では戦争の神様アレス(ローマに伝わってマルス)と呼ばれてきました。中国でも大火とか、螢惑(Wordではこの漢字が出ます。けいこく)と呼ばれ、人を惑わす光という有り難くない名前をもらっています。日本でも「災い星」とも言われ、世界中で忌み嫌われてきました。

3 火星の軌道は、他の惑星に比べて大きく歪んでおり、位置がなかなか予想し難く占星術師泣かせだったようです。熱心に観測したチコブラーエとそのデータを解析した弟子のケプラーによる3つの法則の発見は、科学史のハイライトでしょう。ケプラーの第3法則はニュートンが万有引力の法則を発見する際大きな影響を与えたと言われます。もしも、火星の軌道が円(に近いもの)だったとしたら、万有引力の法則の発見は遅れていたかも知れません。その後の産業革命にも影響し、その分人類の歴史が遅れてしまっていた可能性もあります。火星の軌道の歪みは現代のわれわれにも大きく影響しているのです。

4 1877年火星は大接近します。日本では西南戦争で切腹した西郷さんが星になって現れたといわれ「西郷星」などと呼ばれていました。イタリアではスキャパレリが熱心に観測し、火星の表面にスジを見つけ、キャナリ(溝)と名付けました。英語に訳す時キャナル(運河)と訳され、火星には運河を作るだけの文明を持った「火星人」がいるのではないかという考えが沸き起こりました。
 アメリカの大富豪ローウェルはアリゾナの砂漠に天文台を建て火星を熱心に観測しました。それは錯覚だったのですが、多くの運河、その交差点にオアシス、それらの季節変化がまことしやかに観測され火星生命=火星人への期待は高まります。
 小説や映画の世界では想像力たくましく凶悪な火星人が地球を襲う様が描かれ、人々は火星に限らず、宇宙のどこかには地球と同じような文明が存在するに違いないという「哲学」を持つにいたりました。ゴダードがロケット開発に打ち込んだ原動力は火星に行きたかったからだと言われます。アマチュアの天文家も木星や金星よりまずは火星を観測したがります。最も多くの探査機が飛んでいるのは火星です。今でも探査は続いています。

このような事を考えながら今年の火星を見上げてみると一味違い感慨が得られるかも知れません。



[参考](中嶋記)
*右上カットは,NASAの画像より.
Wikipedia 火星
この夏の火星の見え方(アストロアーツ Youtube より)