2019年12月21日 第645回 月例天文講座 

人類が初めて捉えたブラックホールの姿

  国立天文台 水沢VLBI観測所 助教 秦和弘先生

 2019年4月、史上初めてブラックホールシャドウの撮影に成功したというニュースが世界中を駆け抜けた。撮影に成功したのはイベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope; 通称EHT)という国際電波望遠鏡ネットワークであり、地球から5500万光年かなたのM87銀河の中心にあるブラックホールを捉えた。

 ブラックホールという言葉は宇宙に詳しくない人でも一度は聞いたことがあるだろう。もともとアインシュタインの一般相対性理論から予言される、光さえ脱出できないほど重力が極限的に強い天体である。現在ではほぼ全ての銀河の中心には巨大なブラックホールが存在すると考えられている。にもかかわらず、ブラックホールが光さえ脱出できない暗黒の天体であることを人類は未だ画像として捉えたことがなかった。理論的には、ブラックホールの周りには超高温に輝くガスがあり、中心のブラックホールを影絵のような要領で浮かび上がらせると考えられている。このブラックホールが作り出す「影」のことを「ブラックホールシャドウ」と呼び、シャドウが撮影できればブラックホール存在の強力な証拠となる。ところが問題は、このシャドウ、見かけの大きさが極めて小さいのである。地球から最も大きく観測しやすいと期待されるターゲットですら、シャドウの見かけの大きさは約40マイクロ秒角程度であり、これは月の視直径の僅か5000万分の1ほどでしかない。

 そこでこの困難を突破したのがEHTである。EHTは世界各地のミリ波電波望遠鏡をVLBIという技術で合成し、仮想的に口径10000km相当の電波望遠鏡と等価な解像度を実現する。これは約20マイクロ秒角、視力に換算すると約300万というとてつもない性能である。

 2017年4月、EHTはおとめ座の方向にあるM87銀河の中心部を観測した。そして美しくリング状に輝く構造が検出された。まさにブラックホールシャドウが初めて捉えられた瞬間である。この画像を詳しく分析したところ、M87ブラックホールの質量が太陽の65億倍であることも明らかになった。本結果はブラックホールによって強く歪められた時空構造の視覚的証拠を与えるとともに、いわゆる活動銀河核のエネルギー源が巨大ブラックホールであることも決定的にした。

 今回の講演ではエベントホライズンテレスコープによる巨大ブラックホールの観測結果について解説するとともに、今後のブラックホール研究の展望についても紹介する。



[参考](中嶋記)
*右上カットは、秦先生のホームページより引用。   (写真をクリックすると拡大します)
国立天文台の解説ページ (2019年4月10日)
4月10日の記者会見の映像 (ユーチューブより)