2019年9月21日 第642回 月例天文講座 

重力波天文学,芽生えから開花へ

 国立天文台重力波プロジェクト推進室 特任助教
                 正田亜八香先生

1. 重力波とは

 2016年2月、アメリカの重力波望遠鏡LIGOが重力波を初検出したと発表した。これはのちにノーベル賞を受賞する成果となっている。

 では重力波とは何だろうか。アインシュタインは、重力は時空の歪みとしてとらえることができるとし、一般相対性理論を確立した。時空をトランポリンの膜のようなものととらえ、この上に重い物体があると膜(時空)が歪んで周囲の物体や光が引き寄せられたり公転したりする。ここでこの重い物体が動くと、膜には波が立ち、伝搬していく。これが重力波である。

 重力波が来ると距離が変化する。ただしこの効果は非常に小さい。例えばブラックホールや中性子星とよばれる重い星の運動や、超新星爆発などから比較的大きな振幅の重力波が放出されるが、その振幅は地球と太陽の距離が水素原子1個分程度変わるだけのものだ。


2. 重力波天文学の芽生え

 重力波を初検出したLIGOでは、4km 離れた2つの鏡の間の距離の微小な変動を、レーザー干渉計を用いて精密測定する。重力波による時空の歪みの効果は、鏡の間の距離が長いほど大きくなるのだ。また、地面の揺れを抑える防振装置を導入したり、重く綺麗な結晶の鏡を使うことで熱に起因する鏡の振動を抑えるなど、様々な雑音を下げる工夫がなされている。これによって4km をわずか
4 x 10-18 m、陽子の1/200 程度だけ伸び縮させただけのブラックホールからの重力波も検出できたのだ。

 また、2017年からはイタリアの重力波望遠鏡Virgoも観測網に加わり、中性子星の合体も観測されている。これは世界中の光学望遠鏡による追観測も行われ、私たちの宇宙を構成する物質がどのように生成されてきたのかなどが明らかになってきている。


3. 重力波天文学は開花へ

 現在も望遠鏡の感度を少しずつ上げながら観測が続けられているが、より精度良く観測するためには、複数の望遠鏡で観測を行うことも重要だ。そこで期待されているのが日本の重力波望遠鏡KAGRAの参入である。KAGRAは岐阜県飛騨市の山の地下に作られ、熱起因の雑音を下げるために鏡を低温に冷やすという新しい技術を導入している。KAGRAでは現在干渉計の調整が進められており、今年度中に観測に重力波観測網に参加する予定である。

 そのほか、宇宙に干渉計を打ち上げるLISAやDECIGOと呼ばれるプロジェクトも開発が進められている。これらはLIGOなどとは観測できる重力波の周波数が異なるため、違った天体を探査することができる。

 このように重力波による天文学は始まったばかりだが、すでに様々な結果が報告され、今後も様々な展開が期待されている。本講演ではこれらについてさらに掘り下げて解説する。



[参考](中嶋記)
*右上カットは,高エネルギー加速器研究機構のページ より.(画像をクリックすると拡大します。)
*正田先生の記事がある、国立天文台ニュース,2018年2月号