2020年11月21日 第656回 月例天文講座 

東京大学木曽観測所・新広視野
  動画カメラ、トモエゴゼン

  東京大学理学部天文学教育研究センター
      助教 諸隈 智貴先生

(右図は「トモエゴゼン」を搭載した、木曽観測所シュミット望遠鏡
  木曽観測所ホームページ より。)


 天文学における多くの観測的研究は,「宇宙は静的である」,つまり,観測を行なっている間に, 対象とする天体は変化しないことを前提としてきた.しかし,1990年代のIa型という種類の超新星爆発の 観測による宇宙の加速膨張の発見以降,世界中の数多くの望遠鏡を用いて超新星爆発等の突発現象の発見・研究が めざましく進んでいる.これらの観測では,ほとんど全ての観測装置にCCDと呼ばれる半導体検出器が 使われている.CCDを用いた観測では,データを読み出すために約10秒以上の時間がかかるため, 原理的に,それより短い時間内に変化する天体現象を観測することができず,我々は, 「秒」の時間スケールで変動する宇宙の姿をほとんど理解していない.これを解決するのがCMOSと呼ばれる 検出器である.最近になって,天文観測に耐えうる低雑音の高性能CMOSが利用可能となり,CMOSを天体望遠鏡に 取り付けて観測を行う試みが行われつつある.

 東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターの運用する木曽観測所では,1974年の開所以来, 105cmシュミット望遠鏡での観測を行なっている.シュミット望遠鏡は,空の広い領域を一度に観測することが できるという特長を持ち,木曽シュミット望遠鏡でも古くは写真乾板を,その後はCCDを用いた広域観測を行ってきた. 2010年頃から,木曽観測所では,いちはやくCMOSの性能に注目し,シュミット望遠鏡用のCMOSカメラの開発に とりかかった.カメラの名前をTomo-e Gozen(トモエゴゼン)と言う.トモエゴゼンは,約200万画素のCMOSを84枚並べ, 20平方度という広い領域(満月84個分)を一度に観測することができる.その観測領域内において「秒」または それより短い時間スケールで変動する宇宙を観測することが可能となる.つまり,これまで静止画として観測が 進んできた可視光天文学において,トモエゴゼンは空の広い領域にわたって「動画」を取得することができるのである.

 本講演では,トモエゴゼンによって観測されている短時間変動現象に関する研究成果について紹介する. 例えば,流星,小惑星,ブラックホールを含む連星の活動,超新星爆発,未知の突発現象などであり, いずれも世界的にユニークな科学成果を輩出しつつある.


[参考] (中嶋 記、 2020年11月7日掲示)
*東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 木曽観測所 ホームページ
*「トモエゴゼン」観測運用開始の プレスリリース (2019年9月30日)
Tomo-e Gozen project ホームページ(英文)
*最近の観測成果、アトラス彗星の動画 (2020年4月3日)