2021年8月21日 第665回 月例天文講座 

地球・生命の起源と進化   「ハビタブルな宇宙」

  東京工業大学 地球生命研究所 教授 井田茂先生


 太陽のように自身で輝くガス球の「恒星」を周回する小さな天体が「惑星」で、地球も火星も木星も太陽系の惑星であり、太陽とは別の恒星をめぐる惑星を「系外惑星」と呼んでいる。
 系外惑星の探索は1940年代に始まったが、その後半世紀の間、何も発見できなかった。もう半ば諦めかけていた1995年、ついに系外惑星が発見された。その後の四半世紀で、系外惑星系は実に多様で、太陽系は標準的な姿ではないこと、銀河系の恒星の半数以上は惑星系を持ち、生命を宿す惑星も無数にありそうなことが示された。それが宇宙生物学の隆盛へとつながり、地球外生命、生命の起源の研究を活性化した。
 技術の向上でいまや惑星の大気成分まで観測されるようになった。中心星から適度な距離があって表面に海が存在可能な温度領域(ハビタブル・ゾーン)にある地球型(岩石主体)と思われる惑星で、大気中に水蒸気が発見されたものもあり、そこには海が存在しているのかもしれない。
一方、地球でも深海や地下で地熱をエネルギーにした生態系が発見されたことで、地球生命の概念が大きく広がった。宇宙の生命は多様な仕組みをもっているはずなので、生命存在条件は、水・有機物の存在、継続的なエネルギー供給くらいに絞って考えようという意見が強くなった。
 太陽系内でも2005年に土星衛星エンケラドスの表面で水蒸気が有機物とともに噴出していることが、土星探査機によって偶然発見された。エンケラドスの表面は凍りついているが、地下に温泉の海があることが確実になった。この場所も上記の生命存在条件を満たす。 かつては、生命が住む天体としては地球そっくりな惑星をイメージし、そこに住む生命も地球の動物や植物をもとに想像することが多かった。しかし、系外惑星系は実に多様で、俯瞰的に見ると地球は生命が生息し得る天体の一形態に過ぎず、生命の形も「地球型」が普遍的とは思えない。地球観や生命観が刷新されようとしているのだ。
 そこで大きな問題となるのは、私たちが地球の生命しか知らないことである。地球では微生物も植物も人間を含む動物も、みな同じ遺伝、代謝の仕組みを持ち、同じアミノ酸で作られた細胞で形作られる同じ系統の生命である。遥か昔にいた共通の祖先が様々な方向に進化していった末裔が、現在の微生物、植物、動物なのである。
 一系統の生命しか知らない私たちは異界の生命を認識することができるのだろうか。そもそも生命とは何なのか。しかしながらデータはすでに私たちに届いており、今後ますます増えていく。この問題に研究者たちはどういう戦略で立ち向かおうとしているのか。そのあたりの研究の最先端をお話ししたいと思う。



[参考]  (中嶋記)
*冒頭の図は、カッシニ衛星がとらえたエンケラドゥス表面からのジェット(NASAのページより.)(クリックで拡大)