2021年7月17日 第664回 月例天文講座 

京大岡山3.8mせいめい望遠鏡

  京都大学教授 長田 哲也 先生


 私どものグループでは、口径3.8 mの光赤外線望遠鏡「せいめい」を岡山県に設置し、2019年から世界中の天文学者による共同利用観測を順調に行なっている。

 天球に貼りついたように見える天体の情報をいかに得るか、ガリレオの望遠鏡以来さまざまな工夫がなされて来た。特に19世紀からの分光学は3次元情報の獲得に画期的な転換を与えた。そして天文学者は「望遠鏡をのぞかなくなった」のである。分光に必要な多くの光を得るために、20世紀以降は望遠鏡の大口径化が進んだ。講演ではこれらにふれた後、せいめい望遠鏡の技術的革新について述べたい。

 せいめい望遠鏡は、可視光線や赤外線を集める主鏡が18枚からなる分割鏡であり、日本の望遠鏡では初の試みだった。18枚をどうやってきれいに並べてすぐれた光学性能を達成するか、そして風や姿勢変化などのもとでそれを保持するかが重要である。また、大望遠鏡のない東アジアという位置を活かす点で、突発天体に対応して空のどの方向で起こった現象も1分程度でとらえるという機動性にも考慮した。もちろん、主鏡の一枚一枚や副鏡、第三鏡などの光学素子は高精度な表面を持つ。これには超高精度研削加工を用いて、速く安価に製作した。

 望遠鏡の名前は、1036通の応募の中から14名の方々ご提案の「せいめい」とした。京都に清明神社があり、岡山天文台の近くにある安部山でも観測したと伝わる陰陽師・天文博士の安倍晴明(あべのせいめい)にちなみ、また、この望遠鏡で目指す研究の柱の一つ、系外惑星の探査は、宇宙における生命(せいめい)の研究にもつながるためである。

 現在、せいめい望遠鏡には、焦点部分に集めた光を各位置でのスペクトルへと分光する光ファイバー分光器 KOOLS-IFU が搭載されていて、突発天体現象の分光観測で成果を出してきた。そのいくつかをご紹介したい。





[参考]  (中嶋記)
*冒頭の図は せいめい望遠鏡のホームページ より.(クリックで拡大)

*長田先生の天文月報記事,2021年4月号,『せいめい―京大岡山3.8 m望遠鏡プロジェクト』