2023年2月18日 第683回 月例天文講座 

ガイア天体カタログ

  一橋大学名誉教授    中嶋浩一
   (右図は、銀河を背景としたガイア天文衛星)

 「天体カタログ」というのは、それこそ星の数ほどある天体をリストとして整理したもので、星雲星団の「メシエカタログ」などが有名です。昨年6月に、真に画期的な恒星カタログ「ガイアカタログ」の第3版が出版されて大きな話題になっていますので、これについて紹介します。

 恒星カタログには大きな役割が3つあります。第1は、それぞれの恒星の天球上の位置や明るさをリストアップすること、第2は恒星の色、スペクトル型、距離、固有運動、明るさの変動などの物理的諸量をリストアップすること、第3は天体の位置と固有運動データを決めることによって宇宙の中に静止座標系を構築すること、です。

 第1のデータから空の地図(すなわち星図)を作れば、それによってたとえば撮影された1枚の写真が空のどこを見ているかを知ることができます。また第2のデータから「星とはなにか」という宇宙の大問題の研究を進展させることができます。第3のデータから宇宙の静止座標を確立すれば、その中での恒星全体の運動、また宇宙の中での地球自転軸の方向、自転の速度などを精密に決めることができます。この第3の役割を持つカタログを特に「基準カタログ」と言います。ガイアカタログは、これら3つの役割全てにおいて画期的なものとなっています。

 ガイアカタログの重要性をよりよく理解するために、まず恒星カタログ(すなわち星表)の歴史を見てゆきます。「星表」の最初は、ギリシャ時代の「ヒッパルコス」によるものとされていますが、残念ながら星表の現物は残っていません。後世の記録からその断片を知ることができるだけですが、昨年、ある古記録にその新たな断片と思われるものが発見され、大きな話題となりました。これについても少し詳しく説明したいと思います。

 ガイアカタログの概要は、次の通りです: 恒星数約16億、位置精度は恒星の明るさにもよりますが最高0”.000015、これによる固有運動精度は年間0".00002、距離精度は15000光年で10%、と見積もられます。他に物理的諸量として、視線速度、色指数、スペクトルの特異性、変光の度合い、などをリストアップしています。また、銀河系外天体である「クエーサー」も数多く観測しているので、これを基準にした静止座標も実現しています。

 ガイアカタログのデータを利用した研究もすでに数多く発表されており、どれも大変すばらしい研究なので詳しく紹介したいところですが、詳細は機会を改めて紹介することとし、今回は一例として「ヒアデス星団」についての研究を簡単に紹介します。



*Web ページ
Sorae ヒッパルコス星表
National Geographic ヒッパルコス星表
CDS VizieR カタログページ
CDS のホームページ
マイクロ重力レンズ
アストロアーツ、ヒアデス解説
M6

Hipparcos mission ホームページ
Gaia mission ホームページ

パワーポイント(準備中)