アジアに伝わる七夕の話

            7月7日,吉田二美先生,七夕講演概略
 現在日本の学校やプラネタリウムで語られる星や星座の物語の多くは、ギリシャ・ロー
マ神話に端を発する物語である。しかしながら、七夕伝説や北極星の物語に代表されるよ
うに、アジア諸国にも豊かな星物語が伝えられており、ある地方で発生した一つの物語が
周辺諸国に伝わる際に、気候風土、宗教、語り部たちの豊かな表現力によって変化し、
さらに生き生きとした豊かな色彩をおびているものもある。そこで2009年の世界天文年を
機会にアジア諸国で協力し、アジアに伝わる星の神話・伝説を収集して一つの美しい本に
しようという「アジアの星・宇宙の神話伝説プロジェクト(略称「アジアの星」)」が立
ち上がった。2010年までに、アジアの14カ国・地域(モンゴル、中国、香港、韓国、日本、
台湾、ベトナム、インド、ネパール、バングラディッシュ、タイ、マレーシア、インドネ
シア、太平洋地域)から英語の原稿が集まり、2011年に日本語訳が行われ、世界天文年か
ら二年以上かかったが、ようやく出版社も決まり、本として出版できる準備が整った。
ここでの講演は、「アジアの星」プロジェクトで収集されたアジアの星の物語の中から、
七夕に関連する物語を選んで紹介する。

 七夕に関する物語は中国、ベトナム、日本の三か国から寄せられた。元になる物語は二
千年以上前の中国で生まれたとされている。「牽牛(アルタイル)と織女(ベガ)が結婚
して二人の子供をもうけ、彼らは年に一度七月七日の夜にだけ会える」という点は共通し
ているが、物語が伝達・伝搬されて行く中で、地域の気候風土や風習等の影響でさまざま
な変容が見られる。例えば、中国やベトナムでは、天の住人である牽牛と織女が結婚する
が、日本では天の住人である織女と地上の猟師が結婚する。中国やベトナムでは牡牛の犠
牲(ベトナムでは水牛)が物語に織り込まれるが、日本のお話には牛は出てこない。日本
では瓜から溢れ出た水が天の川になるが、中国では天の川はかんざしで引っ掻いて作られ
る、など。また一つの国の中でもいくつもの七夕伝説が語り継がれているので、本講演で
紹介するのは最も一般的なものの一つであると思っていただきたい。もし時間があれば、
七夕以外の物語もいくつか紹介する。

 「アジアの星物語」は、日本ばかりでなくアジア各国・地域で同時に出版する予定であ
る。本プロジェクトで収集した話をそれぞれの国・地域のプラネタリウム番組や学校教育
に活かすなど、豊かなアジアの星文化を広め共有することができたらと思っている。