地球の自転とその変動
○はじめに
→ 地球自転は,測地学の大きな研究分野です.日本の測地学からの貢献も大きく,
また地球内部構造など,地球科学への大きな手がかりを与えてくれます.日食や
天体運動の計算にも,重要な意味を持っています.講師(中嶋)自身も過去にこの
研究に携わっていたということもあるので,この機会にまとめてご紹介したいと
思います.
○地球自転の変動にはどのようなものがあるか.
*自転速度の変動と,自転軸の変動
→ 地球の自転運動は,その回転速度成分と,回転軸方向の成分に分けられる.
*自転速度の変動
→ 速度の変動は,周期変動,不規則変動,永年変動,に分けられる.
*自転軸方向の変動
→ 自転軸方向の変動には,宇宙に対する変動(歳差・章動)と,地表に対する変動
(極運動)がある.→ 図示
○地球自転変動の発見の歴史
*自転変動の発見(数十年の不規則変動と永年変動)
→ 地球の自転は非常に安定しており,またそれが時計として利用されていたので,
非常に精密・安定な時計ができるまでは自転変動はわからなかった.
→ ブラウンの月運動理論における「大経験項」と「永年減速」の発見.
→ ニュートン力学による計算と,どうしても合わない部分として,経験的に導入.
10.71"sin[1.4°(t - 1850.0) + 170.7°]
-8.72" - 26.74"T - 11.22"T2
→ Sir スペンサー・ジョーンズが,大経験項と同様な変動が,他の天体(金星,水星
など)にも見られることを発見.これが地球自転変動であることを指摘.(1939)
→ 月・惑星の運動の測定の際に,時刻系として地球自転による時刻を使用していた
ので,地球自転の変動による時刻のずれが,天体運動のずれとして反映された.
→ 図示
→ 永年変動( T2の項)は,月の運動の永年減速であるが,永年
減速の理論(潮汐摩擦など)は確定てきではないので,この項から地球自転の永年
減速を見積ることは難しい.
→ 地球自転よりも,月・惑星の運動(地球公転を含む)から時刻を決めたほうが,変動
の少ない時刻系が得られる.→「暦表時」(ET)
→ 月の運動が速度が速いので,月運動の観測から暦表時を作るのが一番.
→ ただし,月の運動理論が完備していればという条件が必要.また,永年変動の
部分は,理論ではわからない.
→ 月の運動の精密観測は,主に星食(または掩蔽,えんぺい)観測による.
※ 暦表時の正式な定義は,ニューカムの太陽表(すなわち地球公転)で与えられる.
(1952) また「1秒の長さの定義」も,これによって決められた.
※ 月の運動による時刻の決定のエピソード.
→ 大航海時代,外洋で船の現在地の経度を決定するためには正確な「時計」が必要
であった.このために2億円に相当する懸賞金がかけられた.このとき,ハリソン
の機械時計(クロノメーター)とマイヤーの月運動時計が競い合い,それぞれが
賞金を獲得した.
*自転変動の発見(季節変動)
→ 季節的な要因による周期変動は 0.03秒程度であるため,水晶時計(精度 0.01秒)
では確認が困難(水晶時計は,ほかにいろいろな環境依存性や,経年変化がある).
→ それでも 1936年ころには,多くの水晶時計に共通の誤差として,季節変動が指摘さ
れた.
→ 最終的には「原子時計」によって確認.(「原子時」は1958年から実用に.)
→ 図示
*歳差・章動の発見
→ 歳差の発見は,ヒッパルコス(BC 2世紀)にさかのぼる.
→ 章動の発見(?)
*極運動の発見
→ 極運動の原理 → 図示
→ 宇宙の中で不変の「自転軸」に対し,地球楕円体の軸「形状軸」がズレている場合,
地表と自転軸との交点が形状軸の周りを回る.
→ オイラーによる理論研究(1750頃)→ 305日周期の極運動を予測(オイラー周期).
→ ポツダムとホノルルにおける緯度変化の同時観測で,緯度変化が極運動によるもの
であることを確認.キュストナー(独),チャンドラー(米),1890 - 91
→ チャンドラーは,この極運動の周期が 430日であることを確認.(チャンドラー
周期)
→ ニューカムが,チャンドラー周期とオイラー周期の差は,地球の非剛体性による
ものとして説明.
→ 国際共同研究「国際緯度事業 (ILS)」が発足 (1899).日本では岩手県水沢市
(現奥州市)に緯度観測所が設置された.
→ 水沢緯度観測所は,長期間中央局として活躍し,所長の木村栄(ひさし)が,緯度
変化のZ項を発見.(1902)
Δφ = Xcosλ + Ysinλ + Z
※ Z項をめぐるエピソード (省略)
○自転軸変動の研究
*歳差章動の理論と計算
→ 剛体地球の歳差・章動理論 → 木下宙(1970)
→ 非剛体性を考慮した理論 → ワール( )
→ IAUの標準計算法(前回説明)
※ 地球内部に起因し,Z項とも関係ある「自由コア章動」を標準計算にどのように取り入
かはまだ決まっていない.
*極運動の研究
→ 新技術(VLBIなど)による国際共同観測で得られた極運動 → 図示
→ 大きさと経年変動
→ チャンドラー周期の問題は,前述のニューカムの理論でほぼ解決.
→ 永年移動は,大陸移動の問題.
→ Z項の問題は,地球内部の流体核に起因する章動(自由コア章動)で説明可能.
→ 若生康二郎(1970)
*自転軸変動と地球科学
→ 上述のように,Z項などから地球内部に関する情報が得られると考えられるが,まだ
まだ理論的には困難が多い.→ 笹尾哲夫「SOS理論」(1980)
→ 極運動の励起と減衰が地球科学(地震など)とどのように関連するかはまだ研究途上.
※ 次にも述べるように,流体核は自転速度の不規則変動にも関連.
○自転速度変動の研究
*いろいろな周期変動
→ 図示
→ これらは,大気の運動によってほぼ100%説明可能
*数十年のスケールの不規則変動
→ 図示
→「うるう秒」との関連.→ 図示
→ 原因は地球内部にあると考えられる.
*永年減速
→ 図示
→ 理論:海洋潮汐の摩擦による減速(計算は難しい)
→ 観測:古代日月食の記述から.→ 相馬さんの話へ.
サンゴの化石などから → 図示