月の「掩蔽(えんぺい)」観測と測地学


○はじめに  → 月の掩蔽観測,すなわち星食観測は,月の運動を正確に求めるために,ひいては   時間(暦表時)を求めて地球自転の変動を調べるためにも,大変重要な観測です.   月運動研究以外にも掩蔽観測の重要な役割があったので,ここではそれを紹介した   いと思います.また14日には金星の食もあるので,一般的なことも勉強します.
○月の「掩蔽観測」(星食観測)とは,どのようなことを行うのか. *掩蔽観測の方法,精度,問題     → 参考(星食観測日本地域コーディネーターのページ)  → 月が恒星の前を通過するとき,そのタイミングを精密に測定して,恒星系(恒星   の位置で定まる座標系)の中での月位置・運動を精密に求める.   → 精度は,眼視で 0.1秒,ビデオ観測で 0.03秒程度(時間の1秒は角度の 0.5”).   → 月の力学的中心と,月の縁との関係が問題     → ワッツの月縁図  → 星食を利用して連星を観測する. → 参考(天平の森天文同好会のページ)
○月の掩蔽観測の測地利用. *広瀬秀雄の指摘 → 図示  → 日本の掩蔽観測と世界平均との間に,系統的なずれがある.   → 約0.9秒のずれ → 日本の経度が約13.4”ずれているのではないか.   → これは日本の測量地図と中国の地図とのずれとも一致する.  → 日本の地図(測地系)は,世界の測地系とかなり大きなずれがあるので,礼文島の   金環日食の観測地の経緯度は補正が必要.   → 結果は補正の通りに観測されたので,広瀬の正しさが実証された.  ※ 礼文島の金環日食 → NASAの日食ページ, 1948年礼文島日食 *日本測地原点について  → 日本の地図は,麻布の旧天文台の天測経緯度を原点とし,鹿野山方向を原方位とし,   相模野に基線を定めて,三角測量で作成された.   → 参考上西さんのページ,キャッシュ)   →(測地)原点がずれていれば日本中の経緯度がずれてしまう.   ※現在の測地原点は異なる. → 参考(国土地理院のページ)   ※震災後 → 参考上西さんのページ,キャッシュ)  → 天文経緯度は,鉛直線(水準器)で決定するので,「鉛直線偏差」があると,世界の   平均からズレてしまう.   → 旧日本地図による鉛直線偏差新日本地図による鉛直線偏差    → 過去の日本地図には,明らかにおおきなズレがあった.   → 旧地図のズレ:「東京付近の経線は東に290メートル、緯線は南に350メートル      ずれます。これにより日本測地系にもとづく経度、緯度はそれぞれー12秒、      +12秒の補正が必要です。これは距離にすると450メートルになります。」      参考上西さんのページ,キャッシュ)   → 日本付近のジオイドの図 *掩蔽観測による離島の位置決定  → 昔は,三角測量のできない離島の位置は,天測によって決定した.   → これらは(旧日本地図のように)鉛直線偏差の影響を受けるので,誤差が大きい.   → (日本の原点と同様に)掩蔽観測で位置が測定できる.   → 光電管を用いて,0.001秒(=月で0.0005”,地表で約1m)の精度.  → ワッツの月縁図の誤差(0.1”)を避けるために,月の同じ縁で掩蔽が起こる離島を選ぶ.   → 図示   → 広瀬と O'Keefe が計画,米陸軍が実施(1954-1964).   → 測定精度,経度方向 250m,緯度方向 140m.   → 人工衛星が利用可能になって,中止.   ※ 掩蔽観測会社というのがあって,観測を請け負っていたということである.