2014 年,北軽井沢駿台天文講座,講演内容概略


[中嶋担当]

*近代科学の宇宙観を近代の天文観測と結び付けるとどうなるか

 アインシュタインの理論的宇宙観を最初に天文観測に結びつけたのは, オ
ランダの天文学者ド・ジッターであった.彼は,当時の天体観測のデータから,
宇宙の大きさなどを計算した.さらに,ロシアの物理学者フリードマンによる理
論の改良などを経て,ベルギーの物理学者・天文学者のル・メートルが膨張宇宙
の考え方を提唱した.そしてこれは,大望遠鏡を用いた天文観測により,ハッブ
ルが観測的に実証した.
 膨張宇宙の考え方は必ずしも宇宙の始まりの考え方に結びつくものではない
とされたが,アメリカの電波技術者ペンジアスとウィルソンの「宇宙背景放射」
の発見により,宇宙がビッグバンによって始まり,膨張して現代に至ったという
考え方が確立した.


*人類の宇宙観の変遷

 人類の歴史の中で宇宙観はどのように変遷して来ただろうか.次のような点
に的を絞って概観する:
 ・古代人の宇宙観にはどのような特徴があるか.
 ・ギリシャ時代の宇宙観のいろいろ.
 ・ルネサンス時代の宇宙観.
 ・科学技術の発展と宇宙観の変化
 ・ニュートン・アインシュタインの登場と物理的宇宙観
 この最後の物理的宇宙観の話が,本講座最初の話の「近代科学の宇宙観」につな
がることになる.


*相対論と重力波

 静電気の力も,磁石の力も,数十センチメートルも離れればほとんど効かなく
なってしまう.しかし電気や磁石を「振動」させると,これらの力は「波」とな
ってはるか遠方まで到達する.ちょうど海水面を盛り上げてもそれはすぐ平ら
になってしまうのに,そのとき発生した波は何千キロメートルも伝わる,という
ことと同じである.
 電気の波は「電波」,磁気の波は「磁波」であるが,これらは必ずペアとなっ
て伝搬するので,「電磁波」と呼ぶ.
 ところで,電気の力と磁石の力の原理を初めて解明した物理理論は,イギリス
のマクスウェルという人が確立した「マクスウェルの電磁気理論」であるが,こ
の理論の方程式を計算すると,電気と磁石の力が「波」になって伝わるというこ
とが出てくる.そしてそれを実際に確認したのは,ドイツのヘルツという物理学
者だった.私たちが便利に利用している「電波」は,このようにしてまず「理論」
から計算によって発見されたのである.
 自然界にはもう一つ,「万有引力」または「重力」という力がある.そしてこ
の力の原理を初めて解明したのが,アインシュタインの「一般相対性理論」であ
る.そしておもしろいことに,この理論の計算から,重力がやはり「波」となっ
て何百光年も伝わるということが出てきた.
 残念ながら,この波,「重力波」は,まだヘルツのように実際に確認した人は
いない.確認する方法はわかっているのだが,ただあまりにも微弱なので,なか
なか確認できないのである.これの一番乗りの検出のために,日本を含む各国で
大規模な実験が行われている.講座では,これらの実験の現状を紹介し,重力波
の意義を説明する.



[井上優貴先生担当] *観測からわかったビッグバン宇宙  近年、宇宙観測の技術が向上し、私たちの宇宙に対する認識が大きく変化した。 その中でも特に重要な結論が私たちの身の回りの物質が宇宙の極初期に火の玉 によって作られたとするビッグバン宇宙論の確立である。本講演では、人類がど のような観測を元に現在のビッグバン宇宙論を検証したのかを紹介する。 *ビッグバン宇宙論の問題点とインフレーション宇宙論  観測によって確立されたビッグバン宇宙論にはどうしても解決する事のでき ない謎があった。それらの謎を解決する為に指数関数的な膨張をビッグバンの 前に仮定するインフレーション宇宙論が提唱された。宇宙の極初期がインフレ ーション宇宙論で説明される事を検証するには、このインフレーション期に生 成される原始重力波の存在を示す必要があった。この原始重力波の存在をいち 早く検証出来る方法が宇宙最古の光である宇宙マイクロ波背景放射を用いた観 測である。本講演では、ビッグバン理論の問題点とインフレーション宇宙論を紹 介するとともに、それらの検証に向けてどのような観測が行われたかを紹介す る。 *B-mode による宇宙観測の現状と最先端の宇宙像  今年の三月に相次いで POLARBEAR と BICEP2 により二本の論文が投稿さ れた。それらは、いずれも宇宙最古の光から B-mode と呼ばれる偏光パターン を見つけ出したという内容である。B-mode はインフレーションや宇宙の大規模 構造を精密に検証する為に必要不可欠なパターンである。本講演では、これらの 観測から解明された極初期宇宙の姿について解説する。