2015年8月2日(日),北軽井沢駿台天文講座,中嶋担当(2)

空想ブラックホール


◎講演要旨

 「ブラックホールはどこにあるのか」、「ブラックホールはどのように見えるのか」という問いには、現在明確な答えが示されています。しかし「ブラックホールの中はどうなっているのか」、「ブラックホールに入れるのか」、「入ったらどうなるのか」、「底抜けの時空の先はどうなっているのか」、などの問いには、まだまだ答えはありません。でも、「もしも・・・であったなら」という仮定を置いた上でブラックホールの様子をいろいろ空想することはできます。以下、楽しい空想をいろいろ考えてみましょう。
 まず「中はどうなっているか」という問いですが、ブラックホール本体と同様、中の状態も方程式の解として求めることはできます。解は一般に大変複雑ですが、簡略化した一つの解を見ると、次のようになります。すなわち、ブラックホールができるには大量の物質が極端に収縮することが必要ですが、収縮が進行してブラックホール限界(これを「事象の地平線」と呼びます)を超えてもその収縮は止まらず、果てしなく収縮するというのです。
 収縮した先はどうなるのか、一点に集まって時空とともに消滅するのか、あるいは別の空間(別の宇宙)に出口をつくるのか、などについては、現代の物理学では計算が不可能です。つまり、そこではもはや一般相対性理論の方程式は成立せず、別のさらに高度な理論が必要となるのだが、そのような理論はまだだれも思いついていない、ということなのです。
 ここからが「もし・・・ならば」の空想の世界です。まず「もし底抜けの穴の先が別の宇宙につながって出口、すなわち『ホワイトホール』を作るならば」と仮定します。また「もしブラックホールに無傷で吸い込まれ、また無傷で出口から出られたならば」と仮定すれば、このトンネルのようなものは別の宇宙への「橋」となるでしょう。これは「アインシュタイン・ローゼンの橋」と呼ばれます。
 さらにいろいろな仮定を積み上げて行けば、「タイムマシンも可能」などという空想も出てきます。これらを講座で具体的に説明します。

◎ブラックホールの理解

○BH の「へり」(これを「事象の地平線」という)
 ・シュバルツシルト半径のところでは、時間は stop
      → 遠方から見ると、吸い込まれつつある物体は、ヘリのところで(時間が)止まって
     いるように見える。
      → 実際は、物体はどんどん中へ入って行く。ただ、見える光の到達時間が無限に延び
     るために、止まっているように見えるだけである。

   ※ これはちょうど、「地平線」を遠方から見ているようなもの。
   (遠近法の図の描き方、参照)
    

   → 実際の地平線にも「無限大」は現れる。地平線に近づくと、横線の密度が
     無限大になる。
   → 地平線を越えて向こうに行くことができるように,シュバルツシルト半径を
     超えて中に入ることができる.

 ・大きな引力と大きな「潮汐力」
   → どんなものもばらばらになってしまう?
    → 実際は程度問題で、大きな BH に小さな物体が入るときは、さほどでもない。
     → ばらばらにならずに中に入ることはできる。


○BH の中はどうなっているか
 ・「特異点定理」(ペンローズ Roger Penrose、ホーキング Stephen Hawking、
            ホーキング博士、公式ページ(英文))
     → BH の中ではすべての運動、時空が中心の1点に集中してしまう。 → 「特異点」
     → 特異点ではどうなるか、一般相対論では解決できない。 → 一般相対論の破綻。

     → さらに新しい理論によって解決・説明する必要がある。
         → 「相対論的量子論?」、「量子重力理論?」、「大々統一理論?」

○「ホワイトホール」というのはどうか
   → シュバルツシルドの解と同様、「ホワイトホール(WH)の解」というのも
     存在する。
    → BH の場合は、物質の1点集中という方法で、それを具体的に作る方法を
     考えることができるが、WH の場合は「発散」であり、作る方法を考える
     ことができない。
   → WH は実在しないだろう。

◎いろいろな「仮定」に基づく楽しい空想

 ・[もし] 別の宇宙が存在して、その中に   [もし] WH が存在し、  [もし] それがこの宇宙の BH の先につながる       ようなことがあれば、これは他の宇宙       へ通じる「橋」になる。 → アインシュタイン・ローゼンの橋(右図)   ・別の宇宙と考えていたものが   [もし] どこかで我々の宇宙とつながっていれば、この橋は宇宙の別の場所に(瞬時に)移動       できるトンネルになる。 → ワームホール(Wikipedia, 英文)            → ワープの可能性  ・[もし] その入口を高速で移動させることができたら、   [もし] 入口と出口の時間が同じであれば,      「タイムマシン」を作ることができる。   ※ 未来の世界へ行くタイムトラベルは可能である.     → 人体の冷凍保存と蘇生,「ウラシマ効果」の利用.       参考:浦島太郎       双子のパラドクス       [FutamaseRel.mp4]     → 過去の世界へ行くタイムマシンが問題.    → 入口を、光速に近い速度で遠方まで往復させ、     「ウラシマ効果」で時間差を作る。時間の遅れている入口     から入れば、出口は同じく遅れた時間、すなわち「過去」     なので、過去の世界に行ける(か?)。    → 提案したキップ・ソーン博士    参考:タイムトラベル    参考:実現可能?タイムマシン