2018年7月6日(金) 11:00〜12:00 第53回 七夕星を語る会
小惑星探査とスペースガード
武蔵野大学教育学部・大学院教育学研究科 特任教授
日本スペースガード協会前理事長 高橋 典嗣
図 2018年七夕の日の小惑星『Hideakiseo』と『Sundaigakuen』の位置
七夕の日が近づくと、夜空に輝く織り姫と彦星を眺めながら、天の川を探してみたくなります。
今日は、私たちの地球を取り巻く身近な太陽系惑星空間、特に地球軌道付近に存在する地球接近小惑星
について考えてみましょう。
この夏に地球に大接近する火星と木星の軌道の間で、小惑星が最初に発見されたのは1801年1月1日のことでした。
直径が約950kmあり、約4.6年で太陽のまわりを公転するこの小惑星はケレスと命名されました
(現在は準惑星に分類されている)。以来同じような軌道を持つ小惑星が
次々に発見されています。現在では100万個弱もの小惑星が発見され、軌道が密集するこの領域をアステロイドベルト
(小惑星帯)と呼んでいます。この内の二つの小惑星の名前を是非覚えていただきたいと思います。それは、
『Hideakiseo(瀬尾秀彰)56957』と『Sundaigakuen(駿台学園)54862』です(図)。
皆さんに関係が深い小惑星が2つもあることは、駿台学園の先生方が科学教育に長年努められてこられた結果を
象徴しているのだと思います。
さて、この小惑星帯から弾き飛ばされたいくつかの小惑星は、地球軌道を横切る軌道に遷移したグループ
があります。これらを地球接近小惑星と呼びます。この夏、小惑星探査機「はやぶさ2」が探査を開始した小惑星
「Ryugu 162173」も地球接近小惑星の一つです。
小惑星探査の目的は、太陽系起源や進化、微小天体の内部構造と形成過程、始原天体中の有機物の検出、
太陽系生命誕生の謎を解き明かすことなどが挙げられ、大変興味深く、太陽系科学にとってその意義は極めて
重要です。さらに、探査により地球にサンプルを持ち帰り、小惑星を構成する岩石や鉱物の情報を得ることは、
地球を天体衝突から守るスペースガードにもつながります。
2013年2月15日、直径20m程の地球接近小惑星が大気圏に突入し、上空28kmで爆発して、ロシアのチェバルクリ湖
に落下しました。爆発地点から50km北に位置するチェリャビンスク市は、爆発による閃光から約2分後に到達した
衝撃波によって大惨事となりました。粉砕された窓ガラスや瓦礫により、約3000人もの人々が怪我をするという、
天体衝突による自然災害が起きたのです。
なぜ、直接の衝突による被害ではなく、上空での爆発が災害の主な原因となったのでしょうか。その理由は、
小惑星探査機「はやぶさ」が探査した小惑星「Itokawa(糸川)25143」の探査結果から推察することができました。
チェリャビンスク隕石は小惑星「Itokawa」と同じSタイプ(ケイ酸塩鉱物や鉄、ニッケルなどで構成する石質)、
しかも熱変成の程度も似ていました。このことからSタイプで、ラブルパイル構造の20m前後の小惑星が地球に
衝突すると、チェリャビンスク隕石のような被害状況になると推察できます。このように小惑星の物質情報を
知ることは、地球に衝突する際の被害状況を知ること、すなわちスペースガードにとっても重要な知見を得る
ことになるのです。
地球接近小惑星を監視する観測は1990年頃から国際的に進められ、日本では2000年から始まっています。
こうした観測により地球接近小惑星を衝突前に検出することは、衝突回避の方法を検討する上でも重要となります。
落下を回避できない場合には、落下位置は勿論のこと、被害予測に基づいたハザードマップを作成して被害を最小限に
止めるためにも、小惑星探査によって様々なタイプの小惑星の種姓を解明しておく必要があるのです。
以上
[参考](中嶋記)
*右上カットは,
JAXA, はやぶさ2のページより.
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