2023年5月20日 第686回 月例天文講座  

私達は宇宙からやってきたらしい

 国立天文台周波数資源保護室アドバイザー 大石 雅壽


 私達の遠い祖先はどこで生まれたのでしょうか?これは長年に渡って人類が持ち続けてきた素朴な疑問です。私達を含めた全ての生物は、有機物(炭素化合物の総称)を用いて生命活動を営んでいます。よく知られているのはタンパク質(アミノ酸がたくさん繋がった物質)や遺伝物質である核酸でしょう。では、最初の生物が生まれる前段階に多量にあったはずの有機物はどこで作り出されたのでしょうか?

 生命の起源研究では最近、生命を形作る最初の有機物が実は宇宙起源ではないかとの説が有力視されています。実際、宇宙空間にある恒星や惑星を生み出すガス中では多種多様な有機物が発見されています。その中にはアミノ酸の一歩手前の物質もあります。これらの生命素材物質が、惑星形成過程において彗星や隕石に取り込まれた形で初期地球にもたらされたとの考えがあります。他にも、隕石が初期地球に衝突した際に生じる熱エネルギーによって有機物ができたという説や深海にある熱水噴出孔でできたという説もあります。どれが正しいのかについてはまだ分かっていないのですが、いずれの場合でも、有機物が濃集し、さらに複雑化することを通じて高い機能を持ち始め、やがて初期生命が誕生したという点では研究者間の考え方はほぼ一致しています。現在、系外惑星が数多く発見されており、その環境は様々です。誕生した初期生命は、惑星の環境に合った形態に進化していったのでしょう。

 本講演では、 (1) 人類が生命の起源を探し求めた歴史、(2) 宇宙における生命素材研究の歴史と現状、(3) 彗星探査機などによる太陽系内天体での生命素材の理解、(4) 太陽系外惑星などにおける地球外生命探査の将来展望、などについて最新の研究情報を交えながら易しくお話しします。



参考資料 (中嶋記)
*右上図は、もっとも簡単なアミノ酸「グリシン」。(こちらのページ より引用)
*天文月報2022年4月号、アストロケミストリー特集記事より、大石先生の解説記事:「銀河系内分子雲の有機分子」