2023年6月17日 第687回 月例天文講座  

太陽コロナはなぜ熱いか
   - 波の果たす役割

  国立天文台助教      岡本 丈典 


 太陽は地球に最も近い恒星で、その表面の構造や活動現象が捉えられているにもかかわらず、まだまだわからないことが数多くある。その1つに太陽コロナ加熱問題がある。6000度の太陽表面に対し、その上空のコロナがなぜ100万度という高温を維持しているのか。この謎を解くため、数多の観測装置開発や理論研究が何十年にも渡り続けられている。その中でも、2006年に打ち上げられた太陽観測衛星ひのでと、それに続く派生装置は目覚ましい成果を挙げてきた。

 ひのでの最大の特徴は大気揺らぎの影響を受けず、鮮明な高解像度の動画が取得できることと高精度の太陽表面磁場の測定が行えることである。これにより、それまで分解することができなかった太陽大気を構成する微細構造の時間発展や磁場の進化を調べることができるようになった。その中でも、太陽大気を伝播する波動の発見は特筆に値するものである。ひのでは、太陽コロナ中のプロミネンスやスピキュールといった、非常に微細な構造が常に横揺れを伴っていることを見出した。この揺れは、太陽コロナを伝播するアルヴェン波によるものであり、コロナ加熱問題解明の緒の一端となった。

 一方、ひのでだけでは得られない物理量も多々あるため、太陽彩層を分光観測する衛星IRISや、彩層磁場の測定に向けた技術開発を行うロケット観測実験CLASPなどが実施され、今日に至る。

 この講演では、上述の波動の発見について、どのような観測データから何がわかることで学問が進展したか、あるいはさらなる理解のためには依然として何がわからず、次の手を打とうとしているのかについてお話しする。


参考資料 (中嶋記)
*右上図は 太陽観測衛星「ひので」のページ より。
岡本先生ホームページ
JAXA 記者会見 2015