2024年5月18日 第698回 月例天文講座  

アルマ望遠鏡で探る高速
電波バーストの出現環境

国立天文台アルマプロジェクト准教授
       廿日出文洋



 高速電波バースト(Fast Radio Burst; FRB)は、ミリ秒という短時間に非常に強い電波パルスを発する天体現象です。2007年に最初の観測が報告されて以降、数千例以上観測されていますが、その起源や発生メカニズムは謎のままです。起源天体の候補としては、中性子星やマグネター(強い磁場を持つ中性子星)、巨大ブラックホールなど、数多くのモデルが提唱されている状況で、天文学における未解決問題となっています。ほとんどの高速電波バーストは、銀河系外で発生していることが分かっています。2020年には銀河系内のマグネターから同様の電波パルスが検出され、マグネター起源説が注目を集めていますが、他の高速電波バーストもマグネター起源であるかは分かっていません。

 天体の形成にはその周辺の環境が大きく影響するため、高速電波バーストが出現した環境を研究することが重要です。分子ガスは、天体を形成する材料であるため、起源天体がどのような環境で生まれたのかを探る手掛かりとなります。例えば、星の質量に対する分子ガスの質量の割合や、分子ガスが星の形成に利用される時間スケールといった、天体形成の理解に直結する物理量を調べることができます。しかし、高速電波バーストが出現した銀河(母銀河)における分子ガスの観測はほとんど行われていません。遠くの天体からの信号は微弱であるため、高い感度を持った望遠鏡での観測が必要になります。私たちは、ミリ波・サブミリ波帯で世界最高の性能を誇るアルマ望遠鏡を用いて、高速電波バースト母銀河の観測を行っています。本講演では、アルマ望遠鏡の観測で分かってきた高速電波バーストの出現環境についてお話します。



参考資料 (中嶋記)
* 右上図は高速電波バーストの観測図。 国立天文台水沢のページ より引用。(クリックで拡大)
廿日出先生の天文月報の記事 「アルマ望遠鏡,本格運用開始から 10 周年」
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