2024年9月21日 第702回 月例天文講座  

宇宙のはじまりとインフレーション理論

国立天文台科学研究部 教授
       郡 和範



 無限に広がる宇宙は、一見その姿を変えないようにも見えます。 しかし、ビッグバン宇宙モデルでは、宇宙は138億年前に小さい火の玉が爆発するように膨張して誕生し、その膨張を続けながら現在の宇宙の姿になったことを教えます。

 しかし、そのモデルですら現代的な新しい観測との矛盾が指摘されてきました。実は、宇宙初期にインフレーションと呼ばれるもっと急激な膨張で宇宙が始まったとする新しい学説によると、ビッグバン宇宙が抱える、数々の問題を解決できることが明らかとなってきました。

 それらの問題は、1)宇宙の地平線問題、2)宇宙の平坦性問題、3)密度ゆらぎの起源、などです。

 問題1)の宇宙の地平線問題とは、なぜ、138億光年先の宇宙の温度がどこでも絶対温度3ケルビン(摂氏マイナス270度)なのか?という疑問に関する問題です。138億光年先の任意の方向から来た光と、その反対の方向から来た光は、それまでの138億年間で、全く出会っていないのに、なぜ申し合わせたかのように同じ温度なのかという問題なのです。

 問題2)の宇宙の平坦性問題は、理論的には宇宙も地球の表面のように球のような形に曲がっていてもよいだろうのに、なぜ、本当に観測的に完全に平坦であると証明されたのか不思議だという問題です。また、問題3)の密度ゆらぎの起源は、銀河をつくるために必要な密度ゆらぎは、どのようにつくられたのかビッグバン宇宙は教えてくれないという問題です。

 また、宇宙の始まりの研究には、ダークマターやダークエネルギーとは何なのか?そして、物質が反物質より多く存在する謎についても、最新宇宙論の観点から回答を与えてくれるのです。そうした宇宙の誕生の謎を解説します。



参考資料 (中嶋記)
*右上図は WMAPのホームページ より。
国立天文台、2021年度将来シンポジウム、郡先生講演
郡先生紹介ページ(researchmap)