2024年7月20日 第700回 月例天文講座  

ついに捉えた背景重力波 ー
パルサーで時空のうねりを
照らし出す

  熊本大学 教授   高橋 慶太郎      図は、パルサーを多数発見した中国の巨大電波望遠鏡


 重力波検出の新たな手法であるパルサータイミングアレイについて、最新の研究成果を交えながらご紹介いたします。重力波は、アインシュタインの一般相対性理論によって予測された時空の波動であり、ブラックホールの衝突や中性子星の合体などにより発生します。これまで重力波は主にレーザー干渉計によって観測されてきましたが、最近ではパルサータイミングアレイという新しい手法が注目を集めています。

 パルサーとは非常に正確な周期で電波が観測される天体です。パルサータイミングアレイは、複数のパルサーの信号を精密に測定し、そのズレを解析することで、宇宙空間を伝播する重力波の存在を検出する手法です。重力波が地球とパルサーの間を通過する際、時空の歪みによりパルサー信号の到達時間が僅かに変動します。この変動を多数のパルサーで同時に観測することで、重力波の検出が可能となります。パルサータイミングアレイは銀河系規模の「アンテナ」として機能し、従来の重力波観測では困難であった超低周波数帯の重力波の検出が可能です。

 この手法はこれまで20年以上にわたって研究されてきましたが、講演者の研究グループは昨年にこの手法で初めての重力波候補が報告しました。この重力波候補は超巨大ブラックホール連星や「宇宙ひも」やインフレーションなど初期宇宙の現象に由来する可能性があります。本講演では、重力波、パルサー、ブラックホールなど基本的な事項の説明から始めて、パルサータイミングアレイによる重力波の検出が宇宙の謎をどのように解き明かしていくのかを解説します。



参考資料 (中嶋記)
*右上の図は、パルサーを多数発見した、中国の巨大電波望遠鏡「中国天眼(FAST)」。
  Wikipedia より引用。
*日経サイエンス記事の紹介はこちら
高橋先生の解説記事・プレゼンテーション一覧熊本大学のページより引用)
熊本大学プレスリリース 「ナノヘルツ重力波到来の証拠をつかんだ 〜超巨大ブラックホールの謎に挑む〜」