2024年8月17日 第701回 月例天文講座  

小惑星研究から見えてきた太陽系の姿

JAXA宇宙科学研究所 准教授  吉川 真


 この30年間ほどで、太陽系の小惑星についての認識は飛躍的に変化しました。1995年の時点では、発見されて軌道が算出されていた小惑星は2万8千個ほどでしたが、現在(2024年8月)では、その数は138万個を超えています。また、最初に探査機が小惑星に接近したのは、木星探査機ガリレオが1991年に小惑星ガスプラをフライバイしたときですが、その後、小惑星探査が進み、探査機が接近した小惑星は15個にのぼります(うち3つには衛星も存在)。日本も、「はやぶさ」および「はやぶさ2」という世界で1番目と2番目になる小惑星サンプルリターン成功させました。

 このように望遠鏡による観測や探査機による探査によって、小惑星の性質がいろいろと解明されてきました。たとえば、小惑星は太陽からの距離によって性質が異なる傾向にあることや、その構造は一度バラバラになった物体が集まったものになっていることが多いことがわかってきました。また、地球に届けられた小惑星の物質の分析によって、小惑星の組成だけでなく、水や有機物についての情報もいろいろとわかってきました。これらのことは、太陽系の誕生から現在に至る進化のシナリオを構築していくときに非常に重要な手がかりとなります。

 別の観点として、プラネタリーディフェンスという活動も非常に活発になってきています。これは、天体の地球衝突による災害を防ごうという活動です。以前は、スペースガードとも呼ばれていました。現時点で、地球接近小惑星は3万5千個余り発見されています。そして、小惑星の軌道を変更するような実験(NASAのDARTミッション)も行われました。このような災害だけでなく、小惑星は宇宙資源としても注目されるようになっています。

 今後の展開としてもいろいろあります。まずは今年の10月、ESAのHeraという探査機が打ちあがり、上記のDARTミッションで実験対象となった小惑星に向かいます。また、すでに打ち上げ済みですが、NASAのLucyやPsyche(サイキ)と言った探査機が新たな小惑星に向かっています。日本の「はやぶさ2」もミッションを延長して、新たな2つの小惑星に向かっています。さらに、2029年4月13日に地球表面から32,000km付近を通過する340mほどもあるApophisという小惑星も非常に注目されはじめました。

 このように、小惑星はいろいろな意味で面白い天体となってきました。この講座では、小惑星の面白さについてご紹介します。


参考資料 (中嶋記)
*右上図は小惑星「リュウグウ」(JAXA のページ より。)
*吉川先生エッセイ 「星の王子さま」への旅 (2005年)
*ISASニュース、第56回、「はやぶさ」生還せよ (2009年)
*吉川先生、前回の駿台天文講座 「はやぶさ2の新たな挑戦」 (2015年)