太陽フレア、活動続けば25年へ警戒必要 通信障害や停電
太 陽表面の黒点が大規模な爆発を起こす「太陽フレア」が8日から連続して発生し、北海道などでオーロラが観測された。当初警戒された全地球測位システム (GPS)や通信への大きな影響は生じていないとみられる。太陽活動は2025年にかけて活発な状態が続く可能性があり、専門家は注意を呼びかけている。
情 報通信研究機構(NICT)によると、8日以降に最大規模のXクラスのフレアが9回発生した(13日午後6時時点)。太陽フレアはA、B、C、M、Xの5 段階で規模を表す。最大規模のフレアがここまで連続して発生するのは米航空宇宙局(NASA)のGOES衛星で太陽活動の監視が始まった1975年以来初 めてだという。
NICTや気象庁などは太陽フレアによる通信障害などに注意を呼び かけていた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると13日午前時点で、JAXAが運用する衛星などで支障はみられないという。国際宇宙ステーション (ISS)の活動への大きな影響も報告されていないという。スカパーJSATも「十分な対策を行っているため運用中の衛星に影響はない」とした。
海外では、中国の宇宙機関がSNSの微博(ウェイボ)に「強い太陽フレアの影響で、中国の宇宙ステーションの軌道はここ2日間、大幅に下がっている」と投稿。ただ、エンジンを使って再上昇するため「心配いらない」とした。
米スペースXは、衛星通信サービスの「スターリンク」についてX(旧ツイッター)に「軌道上のスターリンク衛星はすべて磁気嵐を乗り越え、健全な状態を保っている」と投稿した。現状は大きな混乱は発生していないとみられる。
太 陽活動は11年周期で活発化するとされ、次の活動のピークは25年ごろと見られている。国立天文台で太陽観測科学プロジェクト長を務める勝川行雄教授は 「周期には1年程度ずれが生じることもある。今回の活動が前倒しのピークかもしれないが、より大きなフレアが起こる可能性もある。見通すのは難しいが注意 が必要だ」と話す。
大規模な太陽フレアが発生すると、大きく分けて2つの乱れを地球に及ぼす。①大気上層にある電離圏の乱れ②地球をとりまく磁気圏の乱れ――だ。
電離圏の乱れは、地上と宇宙空間の通信に影響を及ぼす。太陽フレアは、X線や紫外線などの電磁波を大量に放出する。地球に届くと、大気上層の電離圏で酸素や窒素の原子から電子を分離させプラズマ化させる「光電離」が発生する。
光電離は常に発生しているが、規模が大きくなると電離圏の中の電子の数が異常に増える。それによってGPSや衛星通信など地上と宇宙との通信を邪魔して精度が悪くなったり障害を発生させたりする恐れがある。
また電離圏の乱れによって大気上層が膨張することもある。電離によって気温が高まるためだ。そのため低軌道の空気抵抗が増して宇宙ステーションの高度が下がったり、人工衛星の軌道投入の障害になったりすることもある。
磁気圏の乱れは、太陽から放出されたプラズマなどの高エネルギーの粒子や太陽風によって起きる。プラズマは太陽の強い磁場を引っ張るように地球に届く。
太陽の磁場が地球に届くことで、地球の磁場が弱まり磁気圏が乱れて「磁気嵐」と呼ぶ現象を起こす。磁気嵐が発生すると、普段は北極や南極に近い極域でしか発生しないオーロラが発生する地域が広がる。
北極圏に比べて緯度が低い北海道などでオーロラが観測されたのはそのためだ。また磁気嵐は電離圏の気温を高め、大気の組成を変える。その影響で短波の無線通信などに影響を及ぼすこともある。
NICTによると、今回の太陽フレアによるX線などの電磁波で地上にいる人や航空機に搭乗している人が被曝(ひばく)する心配はなく、携帯電話などの地上間通信にも影響はないという。
宇 宙物理が専門の同志社大学の柴田一成特別客員教授は、ここ数日で大規模な太陽フレアを引き起こした黒点群は太陽の端に移動しており「仮にフレアが起きても 地球に直撃することはない」と話す。ただ、フレアの規模によっては地球をかすめる可能性はあり、引き続きの注意を呼びかける。
(矢野摂士、川原聡史、桑村大)
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