2025年6月21日 第711回 月例天文講座

X線天文衛星 XRISM とその成果

 東京都立大学大学院理学研究科 教授
            藤田 裕 




講演要旨: (5月31日 掲示)
 2023年に打ち上げられたX線分光撮像衛星XRISM(クリズム)は、従来の装置と比べて約30倍という卓越した分光性能により、宇宙の謎に迫る画期的な発見を続けています。本講演では、XRISM 計画の概要と、XRISMが明らかにした二つの重要な成果をご紹介します。

### 1. ケンタウルス座銀河団:宇宙最大構造の成長の秘密
 銀河団は、銀河の集まりであり、暗黒物質の重力によって形成された宇宙最大規模の天体です。銀河団内部には数千万度の高温ガスが存在し、X線で輝いています。
 強いX線を放射する銀河団中心部の高温ガスは放射冷却により冷えるはずですが、実際には高温が維持されています。この謎の解明が長年の課題でした。
 XRISMは、地球から約1億光年離れたケンタウルス座銀河団を観測し、中心部の高温ガスが毎秒130〜310kmという速さで流れていることを世界で初めて発見しました。この高速な流れは、過去の銀河団同士の衝突・合体によって引き起こされた「揺れ」であり、ガスを攪拌することで温度を保持していることが判明しました。
 この発見は、宇宙の構造がどのように成長してきたかを示す直接的な証拠であり、銀河団の進化過程の理解を大きく前進させるものです。

### 2. 超巨大ブラックホールの「弾丸のような風」
 銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在し、銀河と共に進化してきました。この「共進化」の鍵となるのが、ブラックホールから吹き出す高速の風です。
 XRISMは、地球から20億光年離れたPDS 456という超巨大ブラックホールを観測し、光速の20〜30%という超高速で噴き出される風の詳細な構造を初めて明らかにしました。
 驚くべきことに、この風は従来考えられていた滑らかな構造ではなく、少なくとも5種類の異なる速度を持つ「弾丸のような」複雑な構造であることが判明しました。この風は1年間に太陽60〜300個分もの膨大な量のガスを吹き飛ばし、そのエネルギーは銀河規模の風の1000倍以上にも達します。
 この発見は従来の理論モデルでは説明できない現象であり、ブラックホールと銀河の共進化メカニズムの理解を根本から見直す必要性を示しています。



参考資料 (中嶋記)
*タイトルの右の図は XRISM ホームページ より。
*東京都立大学 藤田先生ホームページ