例題7: アンドロメダ銀河の距離
著者: Florian Freistetter, ARI Heidelberg
翻訳: 駿台学園高校天文部、 監訳: 中嶋浩一(一橋大学)
はじめに
地球の外の天体への距離を測ることは難しい。月やその他のいくつかの惑星のように
近くにある天体の場合は、電波信号を送って、それが跳ね返って地球に戻ってくるまで
の時間を計ることにより、距離を測ることができる。
恒星であっても近いものであれば、
パララックス法を使うことによってかなり正確に距離を測ることができる。
しかしこれより遠方の天体については、距離の測定は大変困難になる。地球に居て測
定できるのは星の見かけの明るさであり、その実際の明るさではない。小さくて暗いよ
うな星でも地球に近いところにあれば、遠方にある大きくて明るい星と見かけの明るさ
は変わらない、ということがあるからである。
20世紀初頭においては、この天体の距離測定という重大な問題は解決出来ていな
かった。この時期に人々は、いわゆる「星雲」の距離を決定することに特別興味をもっ
ていた。その頃までに人々は、広がって見える天体をたくさん、空の中に見つけていた。
何人かの天文学者は、星雲は私たちの天の川の中にある気体の雲であると考えた。また別の天文学
者は、星雲は星がたくさん集った島のようなものであり、それぞれが独自の天の川であってしかも極度に遠方にある存在だと考えた。もしそれが
真実であったならば、私たちの宇宙はそれまで考えられていたよりもずっと大きいとい
うことになる。
しかし当時はそれらの距離を決定する手段がなかったので、この論争を解決すること
が不可能であった。どうやってその距離を測るかについての最初のヒントが、ヘンリエッ
タ・スワン・リービットによってもたらされた。1912年彼女は、「セファイド」と呼ば
れる変光星のグループを研究していた。それらの星は、数日間の周期で周期的に明るさ
を変えていた。そしてリービットは、明るさの変化の周期がその星の絶対等級と関係が
あるということを発見した!もしあるセファイドの変光周期 P が分かれば、次の公式
を使うことによりその星の絶対等級 M を決めることができる:
M = −1.43 − 2.81*log(P)
(P の単位は「日」)
人々はこの式があれば今や星が実際どのくらい明るいのかを知ることができ、そして
それを測定が容易な見かけの等級 m と比較することができる。実際の明るさと見かけの
明るさとがわかれば、いわゆるディスタンスモデュラス(
距離指標)の計算式
m − M = −5 + 5 log r
を用いることにより、その天体までの距離 r を求めることができる。ここで r の単位
はパーセクである。(1パーセクは、3.26光年、約31兆km である。)
このような方法により、1923年にエドウイン・ハッブルがアンドロメダ星雲のセファ
イドを観測してその距離を測定することができた:その結果は、アンドロメダ星雲が私
たちの天の川の外部のはるか彼方にあってそれ自身が1つの天の川(すなわち銀河)で
あることを示していた!
Aladin を用いてアンドロメダ星雲の距離を測定すること
この例題では、私たちは Aladin の
学生モード を使用する。(これはヨーロッ
パの EuroVO-AIDA プロジェクトで開発されたものである。)
まず Aladin を開き、次のような手順で学生モード(undergraduate)に切り替える:
edit メニュー →
user preferences →
profile →
undergraduate
この新たなモードを有効にするために、Aladin を再起動する。
Aladin でアンドロメダ星雲までの距離を求めるために、まず観測データを取得する必
要がある。
周期光度関係 を利用するために、
アンドロメダ銀河の中のセファイドのデータを 仮想天文台(VO) で次のように検索:
File →
Open
これで
メニューが開くので、そこで
を選択する。
図1:VOからセファイドのデータを検索
すると図のように VizieR のフォーム画面が現れるので、そこの
target 欄に
"Andromeda"(または "M31" )と入力する。また、たくさんのカタログから必要なカタ
ログを絞り込むために、
free text 欄に "cepheid" と入力する。入力後
Submit
ボタンをクリックすると、カタログの検索が行われる。
その検索の結果として、図のような7つのカタログが提示される。(
Description
のカラムにそれぞれのカタログデータの説明がある。)
図2:7個のカタログが得られる
私達はそこで、最新の2003年のカタログを選択することにする。すると Aladin の主
画面に、カタログ所載の天体の位置が図示される;右側にあるスタックの一番下に、カ
タログの名前 "" が示される。
図3:1つのカタログデータをロード
次のステップで、私達は更に詳しくカタログデータを調べる。Aladin 主画面の右側、
ツールバーのメニューから
select ツールを選び、そ
れを用いて、表示されている天体をすべて選択する。する
と主画面の下に測定データウィンドウが開かれ、そこのカタログのデータの数値が示さ
れる。
図4:カタログのデータの表示
カタログデータの表で、"ID" は星の識別符号、"RAJ2000" と "DEJ200" はそれぞれ星の赤経・赤緯
である。また、"Rcmag" と "Icmag" は2種類のフィルターでの星の見かけの等級、"DeltaRc" は等級の
測定値の誤差、"IcFile"、"RcFile" は
光度曲線の詳細へのリンクになっている。
ラベル "Per" のあるカラムは変光周期のデータであり、私達の注目しているデータである。しかし
よく見ると、提示されているカタログデータすべてに周期データがあるわけではない。そこで周期データ
のある星だけを選択するために、特別な「フィルター機能」を使用する:
Catalog → Create a new filter
下図のように "Advanced mode"
を選択、さらに "Columns" メニューから "Per" を選択すると、下図のフィルターウィンドウに "${Per}"
が現れる:
図5:フィルターの作成
私達が使用するのは変光周期のあるデータだけであるから、フィルターウィンドウを ”${Per} > 0”とする。
そしてこの結果を Aladin ウィンドウに表示するために、”${Per} > 0 {draw}”とする。最後に "Apply"
ボタンをクリックすると、Aladin ウィンドウに変光周期のあるデータだけが表示される。
次に「周期光度関係」を利用して、星までの距離を計算する。
そのためにまず、カタログデータに新しいカラムを
付け加える:
Catalog → Add a new column
そうすると "Column calculator" サブウィンドウが開くので、"Name" の欄に "M" と記入する。この記号は
通常「絶対等級」の意味で用いられる。("UCD" と "Unit" の欄は無視してもよい。)
次にこの新しいカラムの数値の計算式を記入する。"Expression" の欄に、周期光度関係の公式:
- 1.43 - 2.81*log(${Per})
を下図のように入力する。
図6:カタログデータの中の新しいカラムの計算
"Add new column" ボタンをクリックすれば、計算が実行されて結果が Aladin ウィンドウに表示される。
さらに新しいカラムを一つ作成し、「距離指標」を用いて距離を計算する。
同様な手続きによって
"Expression" 欄に次のように記入する:
10^((${Icmag} - ${M} + 5)/5)*3.26
3.26 を乗じているのは、単位をパーセクから光年に変換するためである。"Add new column" のクリックにより、
Aladin のメインウィンドウの下部のカタログデータのところにそれぞれのセファイドの距離が示される。
ここで注意しなければならないのは、このような方法はかなり大まかなものである、ということである。より
精密な結果を得るためには、絶対等級を算出した「周期光度関係」の係数などをよく吟味しなければならない。
しかしここでの方法でも、セファイド全体の平均値を求めればアンドロメダ銀河までの距離がかなり良く求め
られる:その距離は 252 +/- 14 万光年となっている!