例題4: プレアデス散開星団
著者: G.Iafrate
(a), M.Ramella
(a), and P.Padovani
(b),
(a) INAF - Astrono0mical observatory of Trieste
(b) ESO - European Southern Observatory
翻訳: 駿台学園高校天文部、 監訳: 中嶋浩一(一橋大学)
1 はじめに
「散開星団」は一群の星が狭い範囲に集まっているもので、それらは重力的に結合しつつ一つの
「系(システム)」として宇宙の中を移動している。散開星団の内部では星々はむしろバラバラに
散らばっているが、全体として一つのガスの雲に取り巻かれている。
星団の中には、重力的にゆるやかに結合した数百個の星がある。「散開」星団という名称は、「球状」
星団と区別するためのものであり、後者は球形にぎっしりと星が集まっている。
天の川の中に天文学者は約300個の散開星団を観測している。その中で最もよく知られておりかつ
見つけやすいのが「プレアデス散開星団」であり、肉眼でもそれとはっきりわかる。
星団は「恒星の進化」の研究で重要な役割を果たしている。一つの星団に属する星々は同一のガス雲
から生成されたと考えられ、年齢的にもまた成分の初期化学組成についても同一であると考えられる。
このことから天文学者は、星の質量の違いがその進化にどのような影響を及ぼすかについての基本的な
情報を得ることができる。実際、星団の中では星々の物理的自由度の違いは質量の違いのみである。
さてこの練習問題の中で、私達は、Aladin ソフトを用いて星の「視差」を調べることにする。視差は
星の距離の測定を行うものであり、それによってどの星が星団に所属するかを決めることができる。
次いで私達は「ヘルツシュプルング・ラッセル図」と呼ばれる「色ー等級図」を作成し、星団の進化
について研究する。
2 視差
天文学者は星の距離を測定するのに視差を利用する。「視差」というのは、比較的近距離の恒星を
離れた2箇所から見た時の視線方向の違いの角度であり、離れた2箇所というのは例えば地球上の
遠く離れた2点、あるいは太陽の周りを回る地球の軌道上の離れた2点、などである。視差は、星が
遠くなればなるほど小さくなる。したがって視差角を正確に測定するには、離れた2箇所
の距離をできるだけ大きく取らなければならない。
そのようなわけで天文学者は、地球軌道の最も離れた反対側の2箇所を観測地点に選んでいる。
天文学者は6ヶ月毎に、3億km離れた2地点において星の位置を測定する。
天文学者は、星の距離の測定の単位として「パーセク (parsec)」という単位を使用する。
1パーセクというのは、地球軌道の半径が角度の1秒に見える距離である。すなわち1パーセク
の距離にある星は、視差が1秒角であるということである。このように視差というのはたいへん小さい
角である。例えば、1秒角というのはサッカーボールを46km離れたところから見込む角度である。
3 恒星の進化
「ヘルツシュプルング・ラッセル図 (HR図)」というのは、星のスペクトル型を横軸に、絶対等級
を縦軸にとって星の分布を描いた図である。これは恒星の進化の研究にとってたいへん重要な図である。
星はその一生の間に、HR図の上に一つの経路を描いて進行する。
星団のヘルツシュプルング・ラッセル図は容易に作成することができる。というのは、絶対等級を
使用する代わりに「見かけの等級」を使用することができるからである:星団の場合は距離を知る必要がない。星団の星は
皆私達から等距離にあるからである。またそれらはほぼ同時に、同一のガス雲から誕生した。それゆえ
星団の星は皆同年齢であり、かつ初期の化学組成も同一であると考えられる:星団の星の明るさの違いは、
星の質量の違いのみで決まると考えられる。このようなわけで、星団は恒星の進化の研究にとってたいへん有用な研究材料となる。
星団のヘルツシュプルング・ラッセル図を見ると、ほとんどの星が「主系列」と呼ばれる特定の場所
に集中していることがわかる。このことは、星の色と絶対等級とに関連性があるということを示している。
質量の大きい星は比較的短時間でその核燃料を消費するが、そうするとHR図の右上の部分へと移動し
始める。この右上の部分の星の集まりの名称を「巨星分枝」という。巨星と呼ばれる星は非常に大きく、
またそれゆえたいへん明るいが、温度は比較的低い。天文学者は、主系列の星の中でまだ右上への
移動が始まっていない最先端の部分を調べることによって、星団の年齢を推定することができる。
このように、ヘルツシュプルング・ラッセル図は、恒星の進化と内部構造の研究において「要石」
のような存在である。
4 Aladinについて
"Aladin" というソフト(ツール)は、フランス、ストラスブールの天文データセンター (CDS)
によって開発・維持管理されているソフトで、いろいろな天球画像を参照しながら視覚的に天体を
調べることができるインタラクティブなツールである。
Aladin を使えば、天球上の任意の部分のディジタル画像を見ながら、CDS の提供する天体カタログ
やデータテーブルをその上に重ね合わせ、いろいろなデータサービス(例えば SIMBAD, NED, VizieR
など)の提供するデータや関連情報をインタラクティブに利用することができる。
今回の例題では、Aladin を「学生モード (undergraduate mode)」で使用するが、これはヨーロッパの
VOグループ "EuroVO" の "AIDA" プロジェクトが開発したものである。
5 プレアデスの画像をロードする
まず Aladin を立ち上げ、上部のメニューから次のようにして学生モードに切り替える:
Edit → User preferences → User Profile → undergraduate
この機能を有効にするために Aladin を再立ち上げする。
今回の例題の目的は、プレアデス星団に属する星の特性を調べることである。そこで私達はまず、
Aladin にプレアデスの画像と関連するカタログをロードする。
次のようにして server selector サブウィンドウを開く:
File → Load astronomical image → Aladin image server
サブウィンドウの "target" 欄には "pleiades"、また "radius" 欄には "30 arcmin" と入力する。
[注] この例題では、下図のような場合にはマウスの右にあるボタン(下図では "SUBMIT")をクリックする。
"POSS II J-DSS2(0.491um) 6.5°x 6.5°" にチェックを入れて下図をクリック:
POSS というのは、Palomar Observatory Sky Survey
の略である:これはパロマ天文台で撮影された北半球から見える天域(赤緯+90度から-27度)の全体写真を
ディジタル化したものである。これらはすべて天体位置の較正が行われている、すなわち画像内の各点の座標
が決められている。
画像の次に私達は、視差データのあるカタログを取得する。カタログとしては、ヒッパルコス衛星の観測
による "The Hipparcos and Tycho Catalogues"
を選択する。
図1:Aladin から利用できるカタログのリスト
このリストを表示するには下図をクリックして、図2の Server selector サブウィンドウを開き、
"Author, free text..." 欄に "parallax" と入力し、下図をクリックする:
表示された図1のサブウィンドウで、"I/239"(すなわちヒッパルコス・タイコカタログ)を選び、元の
(図2の)Server selector ウィンドウに戻ると、"Catalog" 欄に "I/239" が現れる。"Radius" 欄を "5deg"
として、下図をクリックする。
図2:画像やカタログを選択するための Aladin のサブウィンドウ
6 視差データの度数分布の計算
ここではグラフ表示ソフト VOPlot ツールを使用する。これは Aladin のメニューから次のようにして
開く:
Tool → VO tools → VOPlot plotting tool [VO India]
カタログ名の
"I/239/hip_main" を右クリックし、プルダウンメニューから次のようにする(図3参照):
Broadcast selected tables to → VOPlot
図3:VOPlot へデータを転送
次に VOPlot ウィンドウに移って作業をする(図4参照)
図4:VOPlot ツールのメインウィンドウ
x 座標として Plx (Parallax, 視差) を選び、下図のボタンをクリックする:
すると図5のようになる。これは Aladin にロードされたプレアデス周辺の星の、視差データの度数分布図
を表している。
図5:プレアデス周辺の星の、視差データの度数分布図
この図から、プレアデス星団の視差は 8-9 mas (milliarcsec, ミリ秒角) 近辺であること、視差の
小さな背景星も多いこと、および前景にある星(視差の大きい星)もいくつかあること、などがわかる。
プレアデス星団の視差の詳しい値は 8.46 +/- 0.22 mas であることがわかっている。
7 ヘルツシュプルング・ラッセル図を図示する
正確なHR図を作るために、「星間赤化」の補正をする必要がある。天文学者の言う「星の色」とは、
青色(Blue)フィルターで測定した星の等級と可視域(Visual)フィルターでの等級との差 (B-V) のことである。
宇宙の星間空間に薄く広く分布している「星間物質」
は、赤い色の光よりも青色の光をよく吸収・散乱する: このため遠方の星は実際よりも赤くなっているように
見えるので、この効果は「星間赤化」(reddening) と呼ばれる(コラム記事参照)。
したがって、観測された色指数 (B-V) にこの星間赤化の補正をする必要がある。プレアデス星団の場合、
星間赤化は 0.04等級となるので、次のような補正色指数を用いなければならない:
(B-V)
0 = (B-V) - E(B-V) = (B-V) - 0.04 .
この補正された (B-V)
0 でグラフを描くために、カタログデータに新たなコラムを次のように
して作成する。、
Aladin のメインウィンドウのメニューから次のように進む:
Catalog → Add a new column
Column calculator サブウィンドウの "Name" 欄に "(B-V)_0" と記入し、"Expression" 欄には
"${B-V}-0.04" と記入して(図6参照)、下図をクリックする。
いくつかの星を選択すると、メインウィンドウ下部にカタログデータが
表示される。スクロールバーを操作してカタログテーブルの右端を見ると、新しいコラム (B-V)_0 が
付け加えられているのが確認できる。
図3のところで行ったのと同じようにして、カタログデータを VOPlot に転送し、VOPlot ウィンドウに
移る。
そして、"x: " の欄を "(B-V)_0" とし、"y: " の欄を "Vmag" とする。なお、"y: " の欄の "rev" に
チェックを入れる(図7参照)。下図のボタンをクリックすると図7が得られる。
図7:プレアデス星団のヘルツシュプルング・ラッセル図
図7のように、VOPlot ウィンドウにプレアデス星団のヘルツシュプルング・ラッセル図が描かれる。
図を見ると「主系列」の存在がすぐわかる。主系列
上のいくつかの星を select すると、それらが画像の上でどの星であるかを Aladin の画面上で
見ることができる。select したデータを Aladin に転送するためには、VOPlot のメニューから
次のようにする:
Interop → Show Objedts in → Aladin
それらの星がプレアデス星団に属する星であるかどうかは、Aladin ウィンドウの下部に示される
カタログデータの視差 (Plx) データを見ればわかる。主系列の左上の部分の星(最も明るい星々)
を select して、画像上でそれらが星団の中心部の明るい星であることを確認しよう。そしてさらに
カタログデータの視差を見ると、それらがだいたい 8~9 mas であることもわかる。確かにこれらの
星は、プレアデス星団に属している。
今度はHR図の右下の部分の星(最も暗い星々)を select してみよう。それらは画像の上では
星団から離れたところにあり、また視差はほとんど 8 mas より小さいので、背景の星々であることが
わかる。また視差が 8 mas より大きい星、すなわち前景の星も混ざっていることもわかる。