モーツアルト「ジュピター」によせて (2012年2月18日講演,2月21日ページ更新)
中嶋 浩一 (一橋大学,名誉教授)
駿台学園の月例天文講座も,今回は第551回となりました.第500回という記念の日はあの
ノーベル賞の小柴先生に,また前回の第550回記念は元国際天文学連合会長の古在先生にそ
れぞれお話をしていただきました.さて,551回というのは何か記念になるものがあるでしょ
うか.
そこでモーツアルトの登場です.モーツアルトの曲には通し番号が付けられており,その
第551番目の曲が,有名な交響曲第41番,通称「ジュピター」という曲なのです.この通し
番号は,ケッヒェルという音楽学者がモーツアルトの作品を丹念に整理して,ほぼ作曲年
代順に番号付けしたもので,全部で626番まであります.
したがって,551番といえばもうモーツアルト晩年(といってもまだ32歳)の作品で,
第41番ジュピターは彼の最後の交響曲です.またそれは,彼の多くの交響曲の最後を飾る
のにふさわしく,たいへん輝かしくまた荘厳な曲で,それゆえにギリシャ・ローマ神話の
神々の頂点に立つ「ジュピター」の名で呼ばれることになったのです.(墓地の写真)
(写真は, http://static.panoramio.com/photos/original/29874.jpg, http://konotabi.com, より cache)
音楽の話ばかり出てきましたが,天文講座に話を戻さねばなりません.ジュピターとい
えば「木星」のことなので,今日は木星についていろいろお話したいと思います.話の順番
としては,まず木星に関する基礎知識,そして木星に関する最近の話題・研究成果の紹介,
最後には実際の音楽「ジュピター」を聴いてみたいと思います.
*木星に関する基礎情報
+太陽系の中の木星 (Wikipedia)
・惑星配置
→ 諸惑星の中で,ほぼ中央の位置. (http://www.iau.org/public/pluto/ 国際天文学連合のページより)
→ 現代の惑星形成理論では,この位置にあったから大きな惑星になった,とされる.
(理科年表オフィシャルサイトより)
→ しかし太陽系以外の惑星系には,この理論は当てはまらないようにみえる.
→ 軌道半径は,地球軌道の約5.2倍.(下記,小惑星帯の図参照)
→ ケプラーの法則により,公転周期は約12年.
(1,2月の冬空にきれいな木星が見えるのは,次の辰年.)
・惑星の大きさ比較
→ 赤道半径は地球の11倍,太陽の10分の1.
→ 太陽の前面を通過するのを遠方から観測すれば,太陽の明るさが1%減光する.
これは太陽系外の別の惑星人から,十分に発見可能.
→ 質量は地球の300倍,太陽の1000分の1,惑星全質量の70%以上.
→ 太陽系小天体の運動を,大きくコントロールしている.(彗星,小惑星帯など)
(Wikipedia より cache)
・天球上での木星の見え方 (→ ステラナビゲータを使用して実演)
→ 遠方の外惑星なので,光度は−2.8等で,ほぼ一定.(矩の位置で−2.3等くらい)
(極大等級は,水星−2.4,金星−4.7,火星−3.0)(国立天文台歴計算室より)
→ 周期12年なので,1年で黄道星座1つ分移動する.
→ 2012年は「おひつじ」,11年は「うお」,10年初めは「みずがめ」,09年は「やぎ」
→ 2012年の現象:
2月26日,三日月・金星・木星が20度以内に.
3月中旬,夕方の西の空で,金星と木星が4度程度に接近.
3月26日,三日月・金星・木星が15度以内に.
5月13日,「合」.以後,明け方の空に.
6月18日,明け方の空で,細い月と金星・木星・ヒアデス・プレアデスが20度以内.
7月15日,同上.昼前後,月が木星を隠す木星食がある(昼なので見られない).
8月12日午前4時半,月が木星のすぐ近くを通る.
12月 3日,「衝」.(※「合」と「衝」は,上記 矩の位置 参照)
+惑星としての木星 (出典の明記されない画像は NASA APOD より)
・表面の状況 → Pic du Midi での映像(動画)
→ 比較的明るい「帯」と暗い「縞」に分けられる.
→ 赤茶色の縞は低い雲,白い帯は上層の雲,と考えられる.
→ 赤茶色の「縞」は大体2本見えるが,1本しか見えなかったこともある.
→ 2010年中頃の時期の写真.左の画像は航空機を利用した成層圏赤外観測による
もので,縞の部分が温度が高い(すなわち低層である)ことを示す.縞が見えなく
なったのは,上層を白い雲が覆ったため.
→ 赤道付近の白い帯も,いつも白かったわけではない.
→ 2007年の写真.(Hubble 望遠鏡,下の衛星はガニメデ.)
→ 「大赤斑」= 地球2個分の大きさの巨大な台風と考えられる.
→ 極付近には「オーロラ」が見える.(Hubble 望遠鏡のページより)
・成分
→ 重量の75%が水素,24%がヘリウム,他は1%.(宇宙の構成とほぼ同じ)
→ 明るい「帯」はアンモニアの氷の雲,暗い「縞」はリン・硫黄・炭化水素と考えられる.
(2007年の木星)
・内部構造
→ 中心に地球のような岩石質の核があり,その周りを分厚い液体状の水素が取り巻く.
表面から5000km程度までは,厚い雲の層. → 内部構造 (Wikipedia より)
→ 液体状の水素の層は,電気を通す状態にあるので「金属水素」と呼ばれる.
→ 金属水素の対流により,木星には地球のような「磁力」がある.
→ 重力収縮により,内部でわずかに発熱しているが,恒星のような核反応はない.
→ 核反応を起こして恒星になるためには,80倍の質量が必要.
・衛星と環
→ 4大衛星(ガリレオ衛星)と他の衛星・惑星との比較 (Wikipedia "Natural Satellite" より)
イオ,エウロパ,ガニメデ,カリスト
→ 地球の月くらいの大きさ.ガニメデは水星よりも大きい.
イオには活発な火山活動がある.溶岩も流れている.
エウロパは氷で覆われている(氷の下に海?).
ガニメデにはクレータがあるが,数は少ない.カリストにはクレータが多い.
→ 衛星は,2012年までに66個が確認されている.(ジュピターに誘拐された人の名前がついている.)
西洋名画:イオ,エウロパ,ガニメデ,カリスト (Wikipedia より)
→ 木星にも薄い「環」がある.
→ 内側の衛星から放出された物質が分布したものと考えられる.
+木星探査の歴史 (画像は Wikipedia より)
・1609 ガリレオ・ガリレイ
・1973 パイオニア 10,11号(フライバイ)
・1979 ボイジャー 1,2号(フライバイ)
・1992 ユリシーズ木星探査概念図, ユリシーズ軌道(フライバイ)
・2000 カッシーニ(フライバイ), NASA ホームページ, Wikipedia, カッシーニの木星
・2007 ニューホライズンズ(フライバイ), NASA ホームページ, Wikipedia, 木星の写真
・1995-2003 探査機ガリレオ, NASA ホームページ, Wikipedia
・2011Aug.9 ジュノー打ち上げ, NASA ホームページ, Wikipedia
→ ジュノーはジュピターの妻. 探査機ジュノーには,ジュピターとジュノーとガリレオの
LEGO 人形が搭載された.→ WIRED のページの説明
*木星の見どころ
+小天体の衝突
・1690Dec. カッシニの観測記録 (田部一志さん他 のPASJ論文より)
・1994Jul.16 シューメーカー・レヴィ第9彗星, 衝突痕,
28cmセレストロンでビデオ撮影(一橋大)
・2009Jul.19 Anthony Wesley氏の観察
・2010Jun.3 Christopher Go氏撮影
・2010Aug.20 立川正之氏の撮影, 動画 (渡邊潤一氏ホームページ,および Youtube より)
---- 以下については,最近多くの話題がありますが,今回の講演では割愛しました.----
+探査機による成果,経過 (前出のリンクを参照)
・ガリレオ
・カッシーニ
・ニューホライズン
・ジュノー
+衛星エウロパの海の可能性
→ NHKテレビ「コズミック」にて紹介された.
+ホットジュピター (Wikipedia)
→ 太陽系外惑星の研究で明かになったこと.
+木星と小惑星 (Wikipedia より cache)
→ 古在先生の研究 → 最近になって太陽系外惑星の研究に関連して注目される.
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*音楽と映像
+モーツアルト,交響曲第41番,ジュピター
(カール・ベーム指揮,ウィーンフィル,第1,第4楽章) (Youtube より)
+木星の映像
(Astronomy Picture of the Day, NASA より)