2014年9月20日(土)駿台学園月例講座
南極天文台
東北大学大学院,理学系研究科,教授 市川隆 先生
私たちの住むこの銀河はどのようにして誕生し、進化してきたのだろうか。そんな素朴な疑問を解明するために私たちはすばる望遠鏡に取り付けて観測する世界最高性能の赤外線観測装置を開発し、100億年以上も前の宇宙における銀河進化の研究をしてきた。だれも見たことのない宇宙を知るには、新しい最先端の観測装置が必要である。私たちの研究室では自分で考え、自分で設計して観測装置を開発することを基本的な方針としている。2006年に開発し、現在も世界の研究者に様々な天文学研究に使われているMOIRCS(モアックス)は東北大学の大学院生と国立天文台が中心になって開発装置であり、現在も世界最高の性能を誇っている。私たちはこの観測装置を用いて、100億年から120億年前の宇宙の地図を描き、私たち住む銀河系の先祖が120億年前はどんな銀河でどのような進化をしてきたかを解明してきた。
宇宙地図は宇宙の誕生と進化を解明する鍵である。そこで私たちはさらに広範囲の宇宙地図を作るために、地球上で一番星空のきれいな南極内陸の高原に天文台を建設して、望遠鏡を設置するプロジェクトを推進している。すばる望遠鏡をもってしても観測できない宇宙の果ての銀河を研究することを目的としている。そのプロジェクトに不可欠な赤外線望遠鏡と電波望遠鏡を建設するため、南極天文コンソーシアムを結成し、準備を進めてきた。南極と言うとブリザードとペンギンを思い浮かべるが、南極内陸は風の弱い穏やかな場所で、ブリザードはない。毎日晴れの日が続き、透明度が高く、大気は大変安定しているので星の瞬きは地球上で最も小さい。もちろんペンギンは生息できず、生命は存在しない。都市光もないので地球上で最も星空がきれいな場所である。
南極ドームふじ基地に設置した小型望遠鏡
一方で、昭和基地から1000kmも離れており、標高は富士山より高い3810mなので行くだけでも大変である。その地に天文台を建設し、天体観測を行うためには様々な困難が伴う。私たちのグループはこれまで4回、南極隊員としてドームふじ基地に遠征し、天文台を建設するための様々な調査を続けてきた。オーストラリアとの国際協力の下、2年間1KWの電力を無人で供給する自動発電装置を設置して、小型の観測装置で現在も天文学の環境調査を続けている。現在は燃料が切れたので夏季のみ、太陽電池で一部の装置で観測を続けている。
本講演ではこれまでの私たちの研究成果と今後南極で展開する天文学について紹介する。