右のパワーポイント画像をクリックすると拡大します.(一部の「引用画像」は,解像度を落としてあります.) ◎はじめに 本日のテーマは右図の表題であるが,「重力波」の 大ニュースが入ってきたので,まずこれを紹介する. ◎LIGO(ライゴ)グループによる重力波の検出 報告論文と,記者会見画像. 重力波とはなにか = 星の重さで空間がゆがむこと 空間のゆがみの大きさは、太陽 地球間の距離で、 水素原子1個分 LIGOは原子サイズの百分の一の空間のゆがみを検出できる 今回検出した重力波は、36(+5/-4)太陽質量のブラック ホール(以下BH)と29(+/-4)太陽質量のBHの合体で 出来たものである. このサイズのBHは今まで見つかっていない重さで、 どうしてできたかが謎である. 検出した重力波の波形は、相対性理論と完全に一致する. これは歴史的大発見で、重力波天文学の幕開けとなる. 重力波望遠鏡はレーザー干渉計で、重力波による空間の ゆがみを検出する. LIGO と VIRGO と KAGRA の3基が観測を始めれば、 重力波のやって来た方向がわかる. KAGRA は2017年に観測開始 佐藤勝彦によれば、宇宙誕生の瞬間にも重力波が発生 したはず. (本日は,これについてお話しする) ◎宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光観測による原始重力波 の探査について ○宇宙マイクロ波背景放射 CMB(cosmic microwave background)は、ビッグバンの 残光で,マイクロ波として宇宙をさまよっている. 温度のあるものは、すべて電波を出している アナログTV(受信機)の空きチャンネルに映る雑音の 1%は CMB である ○CMB発見の歴史 1951 田中(名古屋大)が発見しかけていた 1964 ベンジャス&ウイルソンが発見 いろいろな可能性を考察 鳩のふんの影響までも考察 → 結局,全天から来る自然の電波に間違いない. 1978 ノーベル賞受賞 ベンジャス&ウイルソンの観測は,全天で一様・等方 1990 COBE 衛星が温度の違いを見つけた 0.001%ぐらいの凸凹 2001 WMAP 衛星 もっと細かい揺らぎの発見 2009 PLANCK 衛星 観測したマイクロ波宇宙図の中の赤い小さな点々が 銀河のタネである. (宇宙地図はモルワイデ図法で、宇宙全体を平面で表す) ※この歴史は、TVがアナログ→デジタル→4Kと進化した 時期と一致する ○スペクトル解析 これによって波形のピークの位置から、宇宙年齢がわかる. パワースペクトルの誤差は2%以下. わかったこと 1)宇宙年齢 138億年 2)ダークマター・ダークエネルギーの発見 加速膨張の謎 とりあえず宇宙がつぶれる心配はなさそう ○CMB の偏光と原始重力波 ビッグバン以前の急激膨張 インフレーションが本当にあったかどうか 宇宙のどちらを見ても同じというのは理解できない 0.001%の精度で一緒というのは不自然である 佐藤勝彦によれば: 宇宙の晴れ上がり後38万年に光の広がる範囲はごく小さい ごく狭い小さな宇宙のときに、全体を同じ温度にして、その あとでぐっと(アメーバが銀河一個分の大きさに)引き延 ばせばよい ※偏光について インフレーション理論が正しいとすると、CMBに渦巻き 模様ができる.これをBモード偏光という. このBモード偏光の発見をめざして、チリや南極での国際 競争が激化している 日本はポーラーベアとクワイアット(現在運用終了)の 両実験に参加. 日本からはKEK・IPMU・核融合研・JAXAから、 20人が参加している 望遠鏡のそばに停めたトラックの荷台のコンテナに司令室 がある. 搭載している超伝導カメラは、20μKの温度差が計測できる. 偏光検出器を搭載した望遠鏡で宇宙を観測し、 CMBのパワースペクトルをとる ○ポーラーベアーの話 ポーラーベアのポーラーは、偏光polarization から取ったもの ポーラーベアが設置されているチリへ行くには 日本からは直行便がない.アメリカかヨーロッパで乗り継 いでサンチャゴへ行く.国内線に乗り継いで約1000km北の カラマに向かう.ここから車で一時間のサンペトロデ アタカマへ行く. 標高2400mのところに前線基地がある.途中にはリャマ・ ビクーニア(南米の高原にいるラクダ科の動物)がいる. 標高4000mを超えると動植物は見えない ポーラーベアが設置されている標高5000mでは 空気の量は地上の二分の一、酸素マスクがいる. 夜は星空・天の川がきれいである. 2014年3月17日にBICEP2(南極に設置)が原始重力波起源 のBモード偏光を発見したと発表したが、のち誤りで あったとわかった. 探索の時代から観測の時代へとなり、Bモード偏光を 使った宇宙論の夜明け POLAR BEAR-2 受信機システムの開発 原始重力波の強度 r<0.01の精度で測定 インフレーション理論のモデル絞り込み 仮説から法則に高めるために不可欠の観測 LiteBIRD衛星計画 2024年頃 原始重力波の強度 r<0.004の精度で探索 これで見つからなければ、インフレーションモデル は棄却される. ◎まとめ 「インフレーション」は次回のお話しへ.
参考書籍 小松英一郎,川端裕人『宇宙の始まり,そして終わり』 日経プレミアシリーズ新書 2015・12・9発行 950円+税 羽澄昌史『宇宙背景放射 ー「ビッグバン以前」の痕跡を探る』 集英社新書 2015・10・21発行 720円+税