2012年3月16日 公開
日本最古の星野写真の発見
経緯
国立天文台では、平成20年4月に天文情報センターの中にアーカイブ室(注1)を発足させ、歴史的価値のある天文学に関する資料(観測測定装置、写真乾板、貴重書・古文書)の保存・整理・活用・公開をめざして活動してきました。このアーカイブ室の活動の一環として、約2万枚と想定される段ボールに収められた古い乾板の整理を続けてきました。その過程で、19世紀末から20世紀初めにかけて、麻布で観測していた時代に撮影されたと思われる星野写真乾板を、全部で437枚、発見しました。
もともと国立天文台は、かつての東京帝国大学東京天文台として19世紀に設立され、東京都心・麻布において、様々な観測に着手していました。しかし、当時の資料や観測装置、乾板類などは、現在の三鷹の地へ移転する前の関東大震災や、戦中にあった三鷹の東京天文台本館の火災などで喪失したと思われていました。今回、発見したのは、麻布時代にブラッシャー天体写真儀(注2)によって撮影された、日本最古の星野写真乾板群です。乾板の大きさは253mm×220mm、視野は12.0度×10.4度です。これらの乾板は、保存状態が悪く、膜面がはがれているものもありますが、かなりの数の乾板は、まだ何が撮影されているか、よくわかる状態でした。
最も古い乾板
確認できる中で最も古いものは、乾板番号No.13と記されている写真乾板で、1899年3月5日の撮影です。この乾板はとも座を撮影したもので、露出時間は19時1分から20時8分までの1時間7分で、ほぼ14等級の恒星まで写しこまれていました。(写真1)
長い露出を掛けた乾板
また、1900年2月28日から撮影された乾板は、その後、2夜にわたり、7時間以上の露出をかけたもので、B等級で17.3等まで暗い星が写しこまれていました(写真2)。当時の東京都心の麻布の夜空が真っ暗であったこともさることながら、感度の低い写真乾板を有効に活用しようとしていた当時の苦労が忍ばれます。
日本初の小惑星を捉えた乾板
日本で初めて観測され、我が国に由来する命名がなされることになった小惑星「TOKIO」、「NIPPONIA」が撮影された乾板も見つかりました。これらは当時の東京帝国大学教授であった平山信が、1900年3月6日と3月9日に撮影した乾板です(写真3)。それぞれ、移動している天体に丸印がつけられ、ABCと符号が振られています。軌道計算による同定で、これらのAが「NIPPONIA」、Bが1885年に既に発見されていた「CAROLIA」、Cが「TOKIO」であることと同定されました(詳細は、アーカイブ室新聞565号(PDF)参照)。
大きな固有運動が分かる乾板
100年も前の星野写真ですから、大きな固有運動の恒星が写されていれば、その移動がわかるはずで、教育的にも貴重です。そこで、大きな固有運動を示す恒星のリストと、撮影された乾板の位置を照合していったところ、1910年9月5日に撮影された乾板 No.581に、はくちょう座61番星(注3)が撮影されていることがわかりました(写真4)。この恒星は、現在知られている恒星の中では十指にはいる固有運動の大きな星です。その位置を測定し、1855年のボンの星図での位置、そして2005年9月30日の位置を、1951年7月に撮影されたパロマー写真星図での位置にプロットすると、見事に150年にわたる移動が見事に再現されました(写真5、詳細はアーカイブ室新聞567号(PDF)参照)。
オリオン大星雲
数ある天体の中でも有名なオリオン座にある散光星雲(オリオン大星雲、M42)を写した写真乾板。 1916年2月14日に、3時間ほどの露出で撮影されたもので、周囲の淡い部分まで映し出されいます。
今後
これらの乾板は、今後はデジタル化するとともに、乾板アーカイブとしてリスト整備を行い、公開していく予定です。
なお、この成果は3月19日からはじまる日本天文学会2012年春季年会(京都・龍谷大学)で発表されます(注4)。